研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05360
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
阿部 肇 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (10324055)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超分子化学 / らせん分子 / かご状分子 / キラリティー / 不斉誘起 |
研究実績の概要 |
当研究グループが開発を行ってきた「ピリジン-フェノール交互型フォルダマー」は、糖質などのゲスト分子を強く取り込みながら、らせん型の高次構造を形成する。このとき、ゲスト分子のキラリティーがらせんのキラリティーへと転写される。本研究課題では、(1) 側鎖に配位部位を導入した「ピリジン-フェノール交互型フォルダマー」を設計・合成し、糖認識と金属塩の添加による非対称性の変化についてCD計測などにより検討を行った。(2) 併行して、トリフェノール-トリピリジン分子を三座配位子として用いたM3L2型かご状錯体 の開発も行い、糖認識によりかご構造がキラルに捻れて非対称性が伝わる系を見出した。 (1) 配位性部位を持つピリジン-フェノール交互型フォルダマー 側鎖に配位部位を導入した「ピリジン-フェノール交互型フォルダマー」について設計と合成を行った。得られたフォルダマーが、CH2Cl2/THF 中、糖質を加えた場合にその主骨格がキラルならせんを形成することを見出した。そのらせん型錯体へ Mg(ClO4)2 を加えていったところ、塩を3当量加えたときに CD が最も強まり、その後は衰えていった。同様の現象は Sc 塩でも見られ、側鎖の数に見合った当量のイオンがらせんを安定化させる一方、過剰のイオンは内孔へも配位して糖認識を阻害すると考えられた。 (2) M3L2型ヘキサフェノールかご状錯体 トリフェノール-トリピリジン分子を三座配位子として、Pd(II) 前駆体を 2:3 のモル比で作用させるとかご状錯体が形成することが、X線結晶構造解析や1H NMR、質量分析から確かめられた。このかごは、内側にフェノール性ヒドロキシ基が6個配置したヘキサフェノール構造を持っており、さらに内孔にグリコシドが取り込まれると、かごの骨格にキラリティーが誘起され CD をあらわした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 配位性部位を持つピリジン-フェノール交互型フォルダマー この項目については、設計と合成の進捗はほぼ予定通りであるが、合成段階の中で収率が不十分であるなど最適化の余地が残る。得られたフォルダマーの挙動の調査や金属塩の添加効果は始まったところである。 (2) M3L2型ヘキサフェノールかご状錯体 この項目については、設計と合成、糖認識の機能評価と非対称性の発現までの成果がとりまとまり、この春に論文を欧文誌へ投稿、掲載された(J. Org. Chem., 2018, 83, 3132 - 3141.)。
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今後の研究の推進方策 |
(1-1) 配位性部位を持つピリジン-フェノール交互型フォルダマーの性能評価 : 前年度までの合成に至った、配位部位を持つピリジン-フェノール交互型フォルダマーの基本的な機能について、以下の3点を精査する。(i) 糖質ゲストを分子認識できるか、(ii) キラルならせんを形成できるか、(iii) 糖質ゲストなし、側鎖に金属を作用させたときにらせんが安定化されるか、である。(i)(ii) については、以前のピリジン-フェノール交互型フォルダマーの場合と同様の検討により確かめる。 (iii) については、らせんの形成を CDスペクトルにより確かめることができない(キラル源がない)ため、側鎖の1H NMR シグナルの変化を観測して金属中心が入ったかどうかを推定することになろう。 (1-2) 機構の一般性の検討 : 糖質ゲストと金属前駆体についてスクリーニングを行い、非対称性の伝播の機構にどれだけの一般性があるかを調べる。糖質ゲストのサイズによる非対称性の制御が可能かどうか、検討を広げる。また、伸長したフォルダマーを用いた、巨大ならせん型構造と多糖類との組み合わせも検討の対象とする。 (2) M3L2型ヘキサフェノールかご状錯体 : M3L2型かご状錯体についても併行して研究を行う。前年度に論文として成果を報告したかご状錯体について、糖認識機能の向上とねじれにより現れる CD の強化を狙い、検討を続ける。 申請者が今春に富山大学から姫路獨協大学へ移籍したため、研究環境を再構築しなければならない状況にある。富山大学に残した研究協力者とも連携しながら進めていきたい。
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