研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05361
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
前田 勝浩 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (90303669)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | らせん / キラル高分子 / 分子認識 / 不斉触媒 / 不斉識別 / 光学活性 / 不斉増幅 / 金属錯体 |
研究実績の概要 |
本研究は、らせん高分子を配位子として利用したキラルナノ空間を創成し、その特異な機能の発現を利用した不斉触媒等への展開を行う。具体的にはらせん高分子に特徴的な協同効果による不斉増幅現象を活用し、微量キラル源からの効率的なキラルナノ空間の形成を目指す。さらに、外部刺激によるらせんの巻き方向の可逆的な制御が可能である特長を巧みに利用することにより、そのキラリティーを固体状態で制御可能なスイッチングキラルナノ空間を創成する。 本年度は、らせん状ポリアセチレン誘導体への金属等の配位がもたらすキラルナノ空間の創製と機能開発に関する以下の2つの研究成果が得られた。 1. らせん高分子集積キラルナノ空間の不斉反応への適用:「らせん誘起・記憶」現象を示す、らせん状ポリ(ジフェニルアセチレン)をキラル配位子として用いた二核金属錯体を合成し、らせん構造が集積したキラルナノ空間を利用した不斉触媒反応の開発を行った。二核ロジウム錯体との配位子交換によって、らせん構造を記憶として保持したポリマーが多数配位した高分子錯体を合成し、これを触媒として不斉シクロプロパン化反応を行ったところ、最大34 %ee の不斉選択性が発現し、らせん高分子鎖の集積により形成されたキラルナノ空間が、らせん高分子触媒反応において有効に機能することを実証することができた。 2. 金属応答性らせん高分子のスイッチングキラル空間を用いたキラルカラム:アキラルな金属塩の添加により、溶液中でらせん反転を示すポリ(フェニルアセチレン) 誘導体を担持したシリカゲルを充填したHPLCカラムを作製し、ラセミ体の光学分割を行った。その結果、本カラムが、アキラルな金属塩の配位によって固体状態でらせん構造のON-OFFとらせん反転に基づく全く異なる光学分割能を示し、各状態に可逆的にスイッチングが可能なキラルカラムとして機能することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要にまとめたように、研究計画に掲げた「らせん高分子を配位子として利用したキラルナノ空間の創成」については、記憶として保持されたらせんキラリティのみに由来する光学活性を示すらせん高分子鎖を多座配位子とした集積型らせん高分子錯体を合成することに成功した。また、「らせん高分子を配位子としたキラルナノ空間の不斉触媒等への展開」についても、上記の集積型らせん高分子錯体を不斉反応の触媒として用いることにより、らせんキラリティーのみに由来する不斉選択性が発現することを明らかにした。さらに、溶液中で外部刺激によるらせんの巻き方向の可逆的な制御が可能であるポリフェニルアセチレン誘導体について、そのキラリティーを固体状態でも可逆的に制御できることを明らかにした。また、この特徴を利用して、可逆的にスイッチングが可能なHPLC用のキラルカラムとして機能することも実証した。以上を総括し、全体的には概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
以下に、今後の推進方策を以下に示す。 1. 昨年度、らせん構造を記憶として保持した側鎖にカルボキシル基を有するポリ(ジフェニルアセチレン)誘導体を、中心金属(M)にロジウム(Rh)を有する二核金属錯体と混合することにより、らせん高分子を多座配位子とした集積型らせん高分子錯体を合成することに成功している。また、本錯体を不斉反応の触媒として用いることにより、らせんキラリティーのみに由来する不斉選択性を発現することを見出している。本年度は、本錯体を触媒に用いた種々の不斉反応について詳細に検討し、不斉選択性および触媒活性の向上を目指して反応条件の最適化を行う。 2. 側鎖にビフェニル基を有するポリアセチレン誘導体について、光学活性アルコールとの相互作用によって一方向巻きのらせん構造が誘起され、光学活性体を除去した後も記憶として保持されることを見出しているが、らせん形成には過剰量の光学活性アルコールが必要であった。そこで、らせん高分子に特徴的な不斉増幅現象を活用し、微量のキラル源から効率的にキラルナノ空間を形成可能な条件を探索する。また、不斉増幅現象によって形成されたキラルナノ空間を、不斉反応やキラル識別などの機能発現のために利用する。
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