本研究は、らせん高分子に特徴的な協同効果による不斉増幅現象を活用し、微量キラル源からの効率的なキラルナノ空間の形成を目指す。さらに、外部刺激によるらせんの巻き方向の可逆的な制御が可能である特長を利用することにより、固体状態でキラリティー制御が可能なスイッチングキラルナノ空間を創成する。本年度は以下の研究成果が得られた。 1. らせん高分子集積キラルナノ空間の不斉反応への適用 昨年度、らせん構造を記憶として保持した側鎖にカルボキシル基を有するポリ(ジフェニルアセチレン)を、中心金属にロジウムを有する二核金属錯体と混合することにより、らせん高分子を多座配位子とした集積型らせん高分子錯体を合成することに成功し、本錯体を不斉シクロプロパン化反応の触媒として用いると、らせんキラリティーのみに由来する不斉選択性を発現することを見出している。本年度は、本錯体を触媒に用いた不斉反応について反応条件の最適化を行い、最大48%ee の不斉選択性が発現することを明らかにした。 2. キラルカチオンの配位によるポリアセチレンへのらせん誘起・記憶 側鎖に動的軸性キラルなビフェニル基を有するポリアセチレン (poly-1)が、溶液中だけでなく固体状態でもキラルゲストとの非共有結合相互作用を介して、一方向巻きらせん構造の誘起・記憶の現象を示すことを見出し、この特徴的な性質を利用して溶出順序を自在にスイッチできるキラルカラムの開発に世界で初めて成功している。しかし、poly-1に一方向巻きらせん構造を誘起するには、大過剰量のキラルゲストが必要であった。そこで、poly-1のビフェニル基上の2つのメトキシメトキシ基によって形成される擬クラウンエーテル構造に着目し、キラルアンモニウム塩をキラルゲストに用いることによって、触媒量(0.1当量)でもほぼ完全な一方向巻きらせん構造の誘起と記憶が可能であることを明らかにした。
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