研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05379
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
杉浦 健一 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (60252714)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 軸不斉 / 多環芳香族化合物 / 金属錯体 / 光合成 / ポルフィリン / ピレン / 円偏光発光 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、π電子系が拡張した多環芳香族化合物を構成要素とした軸不斉型新規配位子の合成、対応する金属錯体の合成、及びそれらの分光学的挙動について評価を行うことを計画した。 まず、申請研究立案の根拠となった申請者オリジナルのビピレノール分子を用いて、金属錯体の合成を行った。ビピレノールの配位箇所はハードな塩基である酸素原子であるので、高酸化状態のハードな酸が適当であろうと考えられる。そこで、+6価のタングステンW+6を候補として考えた。この錯体に用いた配位子はキラルであるため、得られた錯体のΔ型とΛ型はジアステレオマーの関係にある。以降の分光実験はジアステレオ混合物として行った。まず、吸収スペクトルを測定した。その結果、ビピレノール由来の350nm近傍の吸収とともに、650nmにLMCTに帰属できる吸収が見いだされた。そこでCDスペクトルの測定を行ったところ、用いた配位子由来の吸収に対してのみコットン効果が見いだされ、LMCT遷移は不活性であった。さらに、この錯体の電気化学的特性を評価した結果、W+6→W+5、W+5→W+4と帰属できる二段階の可逆な還元波が観察された。興味深いことに、これらの酸化還元過程において錯体は明瞭な色調の変化を示し、分光学的測定の結果、エレクトロクロミズムを示す錯体であることが明らかとなった。 次に、天然の不斉色素の代表例であるクロロフィル分子に注目し、分子の不斉構造が光合成に及ぼす効果を明らかにするために、ポルフィリンの軸不斉二量体分子の合成と評価を行った。合成に際しては、申請者独自の合成手法を用いることにより、大きな光学異方性を実現することに成功した。この研究の中で、光学的性質の異方性は、ポルフィリン(=蛍光色素)が形成する二面角に支配されているという極めて重要な知見が得られた。又、この二面角を系統的に変化させることにも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請書提出以降、新規な配位子の合成が順調に進み、かつ、これらを実現するための新しい反応条件が見い出されたため、当初計画していたよりも多くのバリエーションを有する新規配位子の合成に成功している。これらを用いることにより、より多彩な金属錯体の合成が可能になると考えられ、申請した研究課題よりも多くの研究成果が得られるのではないかと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
ビピレノールと遷移金属との錯体については、配位子のビピレノールを、申請者が合成した他の軸不斉配位子に変換して合成を行う。それとともに、タングステン以外の金属についても錯形成能の評価を行う。例えば、ハードな酸であるハフニウムやタンタル、あるいは第一遷移金属である亜鉛や銅の錯体合成についても意欲的である。得られた錯体について、分光学挙動を評価する。 一方、ポルフィリンの不斉二量体については、天然の不斉構造の再現を念頭に置き、積層型で、かつC2の点群に属する構造のモデル化合物を設計し、合成を行うことを計画している。
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