本申請研究では、π電子系が拡張した多環芳香族化合物を構成要素とした軸不斉型新規配位子の合成、対応する金属錯体の合成、及びそれらの分光学的挙動について評価を行うことを計画した。 錯体の合成戦略は、以下の通りである。配位子には、申請研究立案の根拠となった申請者オリジナルのビピレノール分子を用いる。ビピレノールの配位箇所はハードな塩基である酸素原子なので、高酸化状態のハードな酸が適当であろうと考えられる。このような戦略の下、平成29年度には+6価のタングステンW+6を選択し、期待通りの錯体を得た。平成30年度には、+4価のスズを選択し、かつ、このポルフィリン錯体[Sn(IV)Por]L2を標的とした。ポルフィリン配位子Porは-2価の平面四配位の陰イオンと考えられるので、錯塩として電荷を中和するためには、負電荷を有する軸配位子Lをポルフィリンの上下に要求し、結果として[Sn(IV)Por]L2を与えることが期待される。まず予備実験として、ビピレノールに類似した軸不斉化合物であるBINOLを用いて錯体合成を行った。その結果、BINOLは、分子に含まれる水酸基の一方を用いてスズに配位し、[Sn(IV)Por](BINOL)2の組成を有する錯体を与えた。BINOLの一方の水酸基にメチル基、オクチル基、さらにはデンドリマーなどを導入した置換BINOLを合成し、これらを用いた錯体合成を行ったところ、同様な錯体が得られた。以上の予備実験結果をもとに、ビピレノールの配位を試みたところ、これらも期待通りの錯体を与えることが明らかとなった。得られた錯体についてCDスペクトルの測定を行ったところ、強いコットン効果を見出すことに成功し、導入した軸配位子によってポルフィリンに不斉が誘起されたことが明らかとなった。
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