研究実績の概要 |
不斉増幅現象は天然物のホモキラリティーの起源解明につながる科学全般から興味をもたれる現象であり,さらに不斉合成、不斉分割といった有機合成化学へ の応用も期待される重要な現象である。本研究は著しい不斉増幅を引き起こす唯一の不斉自己触媒反応であるピリミジルアルカノールを不斉触媒とするピリミジン-5-カルバルデヒド類へのジイソプロピル亜鉛試薬の付加反応において、亜鉛アルコキシドの配位多量体構造が不斉増幅の鍵になっていることに着目し、その配 位多量体構造をX線結晶構造解析、円二色性(CD)スペクトル、量子化学計算を用いて解明し不斉増幅の鍵となる配位構造を明らかとすることを目的としている。 前年度までの研究によりこの高い不斉増幅を引き起こす不斉自己触媒であるピリミジルアルカノール亜鉛アルコキシドのCDスペクトルが温度により興味深い変化を引き起こす事を見出している。本年度ではさらにこのCDスペクトルの変化について検討をおこない,濃度や溶媒効果による変化を起こすことを見出した。さらに触媒の構造として考えられるいくつかの会合構造に対して,時間依存型密度汎関数法(TD-DFT法)によるCDスペクトル計算を行い,観測されたスペクトルの変化が触媒の会合状態の平衡の変化による物であることを明らかとした。触媒が会合状態を作る事は不斉増幅のメカニズムの鍵となると考えられており,この溶液中での会合状態挙動を明らかとした本研究は不斉増幅のメカニズム解明に大きな進歩をもたらす物である。またCDスペクトルにより触媒の溶液中での会合状態を明らかとした本研究は不斉反応のメカニズム解明にCDスペクトル測定が有効な分析手法であることを示した初めての例である。
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