公募研究
微細な金属コアをもつチオラート保護金クラスター(Aun(SR)m)は、バルク金では見られないサイズ特異的な構造・物性・機能を示すことから、機能性集積型錯体として高いポテンシャルを有している。そうしたAun(SR)mクラスターにおいて、一部のクラスターにはいくつかの要因により光学異性体が存在する。Aun(SR)mクラスターは、多くの酸化・還元反応に対して高い触媒活性を示すため、それらアシンメトリAun(SR)mクラスターは、キラル触媒として高い可能性を秘めている。本研究では、代表的なAun(SR)mクラスターの一つであるAu38(SR)24を、光学異性体毎に分離することに取り組んだ。Au38(SC2H4Ph)24(SC2H4Ph: フェニルエタンチオラート)については、単結晶X線構造解析により光学異性体が存在し、これらを分離する上では、キラルカラムを用いたHPLCが有効な手段であることが明らかにされている。一方で、これらの光学異性体をキラル触媒として利用するためには、収量を高めることが必要となる。今回私たちは、リサイクル分取HPLC(日本分析工業株式会社)と分取用キラルカラムCHIRAL ART Cellulose-SB (250 mm×20 mm I.D.)(YMC)を用いることで、Au38(SC2H4Ph)24の光学異性体を、高い収量で得ることに成功した。移動相には混合溶媒(hexane:2-propanol = 9:1)を用い、流速は9.9 ml/minとしたところ、Au38(SC2H4Ph)24の光学異性体を、高い収量で得ることに成功した。今後はこれらのクラスターをキラル触媒として利用し、本領域の目指す「集積型錯体における構造の非対称性の制御」および「物性・機能に異方性・指向性を有する新機能分子・材料の創製」への貢献を目指す。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、アシンメトリAun(SR)mクラスターの光学分離を目的としている。本年度は、これを実現することができたため、 現在までの達成度を「おおむね順調に進行している」と自己評価した。
次年度は、アシンメトリーAun(SR)mクラスターのキラル触媒としての可能性と構造-物性相関の解明に取り組む。不斉触媒能の解明:アシンメトリーAu38(SR)24については既に,不斉触媒能を明らかにしている。本研究では,そうした反応に加え,単離した全てのアシンメトリーAun(SR)mクラスターを対象に,金属クラスターが触媒活性を示す不斉反応について触媒能を調べる。構造解析:触媒能と電子/幾何構造の相関について知見を得るため,単離したアシンメトリーAun(SR)mクラスターについて,以下の構造解析を行う。電子構造は円二色性分光及び光学吸収分光により調べる。光学吸収分光については,常温下での測定では,振動励起に起因して,多くの遷移が重なった複雑かつブロードなピークを有するスペクトルのみが得られる。本研究では,低温(10 K)にて測定を行うことで,スペクトルのブロード化を抑え,電子構造の詳細の観測を実現する。また,広域X線吸収微細構造解析を行うと,構成原子の電荷状態の詳細を明らかにすることが可能である。そこで,電子構造の解明には,X線吸収微細構造解析も併用する。この測定は,SPring-8にて実施する。幾何構造については,単結晶X線構造解析により明らかにする。Aun(SR)mクラスターの単結晶X線構造解析は,金属クラスター研究において未だ難易度の高い実験である。しかしながら,申請者の研究室には,昨年度より,金属錯体の単結晶X線構造解析を専門とするSakiat Hossain博士が参画している。本研究では,そうした技術を有する博士研究員と協力することで,一連のアシンメトリーAun(SR)mクラスターの単結晶X線構造解析を実現する。
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