本研究では、片方のicosahedral Au13 coreの中心原子が異原子に置き換わった、ヘテロなbiicosahedral 25-atom clusterの合成とその電子構造の解明に取り組んだ。Pdは、HgやPtと同様に、Au13の中心原子にて置換が生じ易い。一方、Pdは、HgやPtとは異なり、電子密度がAuとは大きく異なるため、単結晶X線構造解析において、その位置をAuと区別し、特定し易い。また、Pd(2.20)82はAu(2.54)と比べて小さな電気陰性度を有するため、Pd@Au12においては、PdからAuへの電荷移動が生じると期待される。それゆえ、2つのicosahedral core (Pd@Au12とAu@Au12)間では、中心原子の電荷密度に差が生じ、クラスター内にて、電荷移動や双極子モーメントの発生が誘起されると期待される。こうした期待から、本研究では、置換元素には、Pdを選択した。適切な実験条件の選択により、目的の[Au24Pd(PPh3)10(SC2H4Ph)5Cl2]+を選択的に合成するに成功した。単結晶X線構造解析より、[Au24Pd(PPh3)10(SC2H4Ph)5Cl2]+は、片方のicosahedral Au13 coreの中心原子がPdに置き換わった、ヘテロなbiicosahedral 25-atom clusterであることが示された。光学吸収分光より、[Au24Pd(PPh3)10(SC2H4Ph)5Cl2]+においては、[Au25(PPh3)10(SC2H4Ph)5Cl2]2+と同様に、個々のicosahedral 13-atom coreの電子構造は比較的良く維持されていることが示唆された。また、電気化学測定より、[Au24Pd(PPh3)10(SC2H4Ph)5Cl2]+は、還元に対して比較的安定であることが示された。
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