研究実績の概要 |
多核金属錯体は、金属イオンの種類・核数に応じた特異なスピン状態・反応性・光物性等を発現することが可能な極めて魅力的な分子群である。本研究では、申請者のこれまでの研究成果ならびに天然の金属酵素の構造にヒントを得、多核金属錯体中に非対称性を導入することで電子状態のチューニングを行い、新奇機能性材料の創製を目指すこととした。 本研究期間においては、研究者のグループにおいて開発された鉄5核錯体をテンプレートとし、構成要素である金属イオンの種類を変化させた異種金属5核錯体の創製を目指し研究を展開した。そのために、段階的合成法を用いた異種金属5核錯体の合成を試みた。まず、配位子置換速度の遅いルテニウムイオンと配位子との反応によりルテニウム単核錯体([Ru(Hbpp)3]3+)を合成した。次に、得られた単核錯体を配位子交換速度の速い2つ目の金属イオンと反応させることで異種金属5核錯体の構築を試みた。異種金属5核錯体の合成に当たっては金属イオンの種類・当量、添加物、塩基の種類、反応溶媒、反応温度、反応時間といった種々のパラメータを系統的に変化させたスクリーニング実験を実施し、最終的に目的化合物のみが選択的に得られる合成条件を決定した。その結果、Fe, Mn, Co, Cu, Znイオンを用いた場合に、異種金属5核錯体([Ru2M’3(bpp)6]3+(M = Fe, Mn, Co, Cu, Zn))が選択的に合成できることを見出した。そして得られたすべての錯体について単結晶X線構造解析を行い、望みの金属配置をもつ5核錯体が得られていることを確認した。また、得られた錯体の電気化学測定を行った結果、金属イオンの精密配置によりその酸化還元電位が大きく変化することが明らかとなった。
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