公募研究
内陸スロー地震の検出を試みた.今年度は,既にスロー地震の存在が分かっている北海道地域を対象として,検出方法の確立を行った.群発的な地震活動があるところでスロー地震が発生しているという事例に基づき,まずは気象庁一元化震源カタログからM3以上,深さ30km以浅の地震活動を調べた結果,18の地域で群発的な地震活動があることが分かった.次に国土地理院が展開するGNSS連続観測網GEONETのデータから,群発的な地震活動域を横断するような基線での基線長時系列の変化を確認し,異常地殻変動の有無を確認した.その結果,北海道北部と中南部の日高地域で明らかにスロー地震と思われる非定常地殻変動が見つかった.北海道北部は既にOhzono et al. (2015) で検出されていた地域であり,この方法が内陸スロー地震を探索する方法として有効であることを確認できた.また,日高地方の非定常地殻変動は2011年9月のM5.1の地震以降に約4ヶ月間継続したことが分かった.この地域は地塁帯の活構造としての活動が指摘されている場所であり,その活動の1つを捉えた可能性がある.群発地震活動域の検出数(18箇所)に対して,内陸スロー地震が見つかった場所は少ない(2箇所).効率的にスロー地震の発生域を検出するために,群発地震活動とする地震活動の閾値を変えてスロー地震が検出される条件について考察した.結果として,M3.5からM4.0以上の地震活動が短期間で発生している場合に,GNSSの基線長にもスロー地震と考えられる非定常地殻変動が現れる.したがって,この規模以上の群発的な地震活動がある地域を検出することで,効率的にスロー地震の発生域を特定できる可能性を明らかにした.
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画では日本海東縁地域を主な対象領域とする予定であったが,スロー地震検出手法の確立を先に行い,その後様々な地域でその手法を用いるという手順に変更した.既に内陸スロー地震の存在が報告されている地域が,今年度確立した手法で確実に捉えられることが確認できたため,これをどの地域に用いても適用できる形となった.そのため来年度に向けて,対象領域とする日本海東縁地域にスムーズに本手法の適用が可能と考えている.また,新しい内陸スロー地震と思われる事例も発見できたため,スロー地震の多様性およびメカニズムの解明に向けて,順調に事例を増やすことができている.
本年度はスロー地震の探索手法の確立に時間を割いたため,主な対象領域としている日本海東縁地域でのスロー地震の探索が後回しとなった.今後は今回確立したスロー地震の探索手法を応用して,日本海東縁地域でのスロー地震の探索および見つかったスロー地震についてのメカニズムの解明を試みる.スロー地震の探索手順としては,今年度とほぼ同様とする.群発地震活動域と定義する地震活動の規模の閾値については,M4以上の複数個の地震活動があるところにターゲットとして,探索の効率化を図る.その群発地震域と認められた地域において,周辺のGNSS観測点がその地域を横断するように選んで基線を作成し,その基線長時系列の変化を追い,地震活動に伴う非定常変動がないかを判定する.得られた内陸スロー地震の候補について,可能であれば断層の推定を行い,スロー地震の発生メカニズムについて考察する.これまでの事例から,地震活動の開始と共に,浅部のデタッチメントや背斜・向斜構造の面を利用した非地震性すべりが発生する傾向があるため,そのような地形がある地域では,浅部の地下構造の対応関係についても考える.最終的に,群発地震活動の規模とスロー地震の継続期間や規模の対応関係をまとめたり,沈み込み帯で作成されているようなスケーリング則と内陸スロー地震との比較を行ったりすることで,内陸スロー地震の発生メカニズムについて理解すると共に,スロー地震の多様性について,新しい知見を得る.
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 5件)
北大地物報告
巻: 81 ページ: 17-26
10.14943/gbhu
巻: 81 ページ: 45-55
10.14943/gbhu.81.45
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10.14943/gbhu.81.11
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10.14943/gbhu.81.57
Geophys. Res. Lett.
巻: 45 ページ: 637-645
10.1002/2017GL075725