公募研究
スロー地震を理解する上で、日本のみならず海外のフィールドにおける比較研究は重要である。ニュージーランド北島北東部では、スロー地震が発生する。この領域では、GNSと東京工業大学が共同して3次元的な広帯域MT観測を実施しており、沈み込むプレートのカップリングの弱い内陸部でスラブ上面に低比抵抗を示す流体の存在が明らかになっている。また、北島南端のウェリントン周辺では、沈み込むプレートが固着していることが知られており、MT観測から得られた2次元比抵抗モデルによれば、スラブ上面に低比抵抗を示す流体の分布が見られない。このことから、流体の存在がプレートのカップリングを支配するという仮説を立てることができる。この仮設が正しければ、北東部のギズボーンから南部のウェリントンに向かって、プレートのカップリングが徐々に強くなることに対応した、3次元的な流体分布があるはずで、本研究ではMT観測によってこの仮説を検証する。平成30年3月にニュージーランド国北島北東部のホークス湾に面するネーピア周辺で広帯域MT観測を、GNS Scienceと東京工業大学、名古屋大学、東京大学地震研究所が共同して実施した。5-10㎞間隔で73点観測点について、それぞれ2日間にわたる観測を行った。観測データは北東ー南西方向に100km、北西ー南東方向に40㎞の範囲をカバーしている。 ノイズを低減するためにリモート観測点を70㎞遠方のタウポ市に設置し、同時参照観測を行っている。取得されたデータは周期3ミリ秒から1000秒に至る広帯域で、品質が高いことが確認されている。今後取得したデータをもとに3次元モデル解析を行う。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、これまで観測点の無かったニュージーランド北島中東部のネーピア市周辺のホークス湾沿いの地域において観測を計画した。観測では測点間隔5-10㎞でグリッド状に観測点を配置して、それぞれ2日間の測定を行なった。現地の研究協力者であるGNS ScienceのWiebke博士、Caldwell博士、Bertrand博士および同研究所の技官3名の協力が得られ、さらに、計画研究班の東京大学地震研究所の上嶋准教授、名古屋大学の市原寛助教の協力もあり、観測作業がスムーズに進行できた。GNS Scienceの9式の観測機材に加えて、東京工業大学の4式の機材を持ち込んだため、2週間程度の観測期間でありながら、73観測点での観測を終了できたことは、計画どおりの成果であった。一方、研究代表者である小川康雄は、東京工業大学の火山観測所の存在する草津白根火山が噴火したことを受けて、草津白根山の火山観測に関わる業務に忙殺され、ニュージーランドの現地観測に参加することができなかったことは残念であった。観測は上述の通り、東京工業大学の大学院生および他機関の関連研究者のサポートで実施することができたことは幸いであった。
前年度に引き続き、ニュージーランド北島北東部で電磁気観測を行う。また、3次元比抵抗構造インバージョン計算を進める。測地学的な歪の分布や、地震波速度構造と比較するとともに、それらのデータと協調的なインバージョンを行い、比抵抗モデルから推定される流体分布と、歪、地震波速度構造との相関を議論する。具体的には、面歪速度分布の分布や地震波速度構造から想定される比抵抗分布をprior modelに組み込むインバージョンを行う。プレート間の流体分布がプレート間カップリングと調和的であるかどうか吟味する。これらの解析作業は、ニュージーランドの研究者(GNS ScienceのWiebke Heiseほか)と共同で行う。観測成果について、2018年8月にデンマークで開催されるElectromagnetic Induction workshopにて発表する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
Geophys. Res. Lett.
巻: 44 ページ: 9261-9266
doi: 10.1002/2017GL074641
Nat Commun
巻: 8 ページ: 1-11
doi:10.1038/s41467-017-01577-2