研究領域 | スロー地震学 |
研究課題/領域番号 |
17H05417
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
隅田 育郎 金沢大学, 自然システム学系, 准教授 (90334747)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 固着すべり / スロー地震 / 粉粒体 / 微動 / 摩擦 |
研究実績の概要 |
本研究ではスロー地震に伴って微動が発生する理由と条件を実験により明らかにすることを目的とする。実験では粉粒体をせん断して固着すべりを実現する。そしてせん断に必要な応力とAcoustic Emission(AE)の時系列データを得て、AEの周波数スペクトルの時間変化を解析する。そしてデータに基づき、AEから応力を推定する方法を考案することを目標とする。本年度は(a)同軸円筒型、(b)平行平板型の2つのセットアップで実験を行い、以下の結果を得た。(1)AEは固着状態からすべりへと移行する限られた時間帯でのみ発生し、前半の応力増大時には高周波数(~100 Hzオーダー)成分が、後半の応力減少時には低周波数(~10 Hzオーダー)のシグナルが卓越する。そしてAEのエネルギーはせん断速度、粒径と伴に増加する。高周波数成分は粒子が間隙を自由落下して再配置するために要する時間(Bagnold, 1966)と同オーダーである。(2)法線応力が増すとAEのエネルギーが増大するばかりでなく、AEの高周波数成分の特徴的周波数がより高くなる。(1)は微動が広帯域で発生することを示しており、その周波数スペクトルの時間変化から応力変化を推定できることを示唆している。最近になってスロー地震に伴う微動が広帯域で発生していることが発見されており、本実験はその理解へ貢献できることが期待できる。(2)の結果は広域応力場、また潮汐による応力変化と微動の関係を理解する基礎データを提供できると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた(1)同軸円筒型、(2)平行平板型、の2つのセットアップを用いた粉粒体のせん断実験を行い、加速度センサーを用いて広帯域におけるAE測定を高サンプリング周波数(200 kHz)で行うことに成功した。これらの実験では従来の粉粒体のせん断実験に比べ、法線応力及びせん断応力が小さい条件下で固着すべりが起きる。そのため応力が降下する際にもゆっくりすべり、AEデータを得ることが出来る。また従来のAE測定ではあまり用いられてこなかった加速度センサーを用いることにより、広帯域におけるAE測定を可能にした。(1)では加速度波形を積分して得た速度波形を使って、応力が増大する固着期間から、応力が減少するすべり期間において、多数のイベントを解析して、AEの卓越周波数が高周波数から低周波数へと移行することを示した。このようにAEの特徴的な周波数が遷移することを単一の加速度センサーを用いて示した例はこれまでにはない。(2)では、まず粉粒体の摩擦係数の測定方法を確立した。そして粉粒体が含む水分量を変えて摩擦を測定し、水分を部分的に含む砂は、乾いた、または水に飽和した砂に比べて摩擦係数が小さく、凝集力が1桁大きいことが分かった(Shibuya and Sumita、準備中)。その上で法線応力を変えて粉粒体のせん断実験とAE測定を行った。その結果、法線応力の増大に伴い、AEのエネルギーが高くなるばかりでなく、その高周波数成分の特徴的な周波数がさらに高周波数側へとずれることが分かった。これは法線応力の増大に伴い、粉粒体の間隙の特徴的な長さスケールが小さくなることと整合的である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は昨年度構築した実験系を用いて、せん断速度、粒径、間隙流体、法線応力を変えた系統的な実験を行い、これらのパラメータに対する依存性とスケーリング則を求め、AEから粉粒体の応力状態を推定する方法を考案する。(1)については昨年度行った実験よりもせん断を行う時間を長くして、定常状態に達するまでの遷移過程も調べ、実験結果の再現性、得られたデータの統計を調べる。また加速度センサーばかりでなく、相補してマイクロフォンによるAE測定も行う。また低周波数成分と高周波数成分を分離するための適切なデジタルフィルターのかけかた、解析方法を確立する。スロー地震、微動の発生には間隙流体が関与していることが指摘されている。よって間隙水圧センサーも設置して、固着すべりに伴う時間変化を調べる。(2)については法線応力が一定の場合ばかりでなく、せん断応力が一定の下で法線応力を時間変化させる実験も行い、その応答過程を調べる。これは潮汐のように時間変動する外力下で励起される微動の挙動を理解する基礎となる。以上の途中経過はJpGU2018及びスロー地震研究集会で発表する。また実験で得られたAE波形と実際のスロー地震に伴って発生する微動の波形を比較することを、実際の野外観測データを使って研究している研究者と協力して行い、微動から沈み込み帯のプレートにかかる応力の時間変化を知る方法を考案する。以上の研究は大学院生(1名)と共同して進め、成果は英文投稿論文としてまとめる。相補して振動下における粉粒体の不安定現象についても学部生(2名)と共同して進める。
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