本研究の目的は、沈み込むスラブから放出された水がプレート境界付近に沿って上昇し、スロー地震発生領域にまで到達するというアイデアの物理的な妥当性を検討することである。手法として固体とその隙間に存在する液体の運動を同時に取り扱う固液2相流理論に基づく物理モデリングを用いた。 本年度は沈み込むスラブ直上に存在する低粘性層内部の水の移動を考え、岩石抵抗と動圧力(物質の変形に伴い生じる余分な圧力)勾配の効果の組み合わせによって、スラブから放出された水が低粘性層内部を素早く上昇しスロー地震発生領域にまで到達する可能性を示した。また水はその量が多い場所と少ない場所とを交互に作りながら移動することも明らかにした。これはスロー地震の繰り返し間隔に関連する可能性がある。沈み込み帯に対する温度モデリングで得られた結果に基づくと、今回新たに提唱したメカニズムによる水の移動は、東北地方のような冷たい沈み込み帯よりも、西南日本やカスカディアなど熱い沈み込み帯で見られる可能性が高い。更に3次元のモデリングを行い、スラブが海溝から離れるように折れ曲がる場所では、水の移動の駆動力の1つである低粘性層内部における動圧力勾配が小さくなることが分かった。これは西南日本やカスカディアで見られるスラブの形状と短期的スロースリップによるすべり量との対応関係を理解する際に重要な情報となる。 これらの内容に関する発表を日本地球惑星科学連合大会、アメリカ地球物理学連合秋季大会などで行い、投稿論文を現在執筆中である。
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