研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05426
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長 由扶子 東北大学, 農学研究科, 助教 (60323086)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生合成 / サキシトキシン / 渦鞭毛藻 / 発現解析 / 免疫染色 / 代謝阻害剤 / プランクトン / LC-MS |
研究実績の概要 |
渦鞭毛藻の麻痺性貝毒生合成には依然として不明な点が多く残されている。本研究では巨大なゲノムを有する麻痺性貝毒生産渦鞭毛藻のサキシトキシン生合成を新たなアプローチで研究した。 【1.生合成反応の場の解明】ウサギとモルモットで作製した生合成酵素SxtAのペプチドに対する抗体を免疫染色に用いたところ、異なる染色像を示した。いずれの抗体も無毒株に低く、有毒株に高い反応性を示しておりどちらが真のSxtAのシグナルであるか不明であった。 【2.新たな生合成酵素の探索】生合成酵素を阻害する代謝阻害剤にプローブを結合させて、検出を可能とするという課題のために、まずサキシトキシン生合成阻害作用のあるFUdRのフッ素がエチニル基に置換されたEthynyl deoxyuridine(EdU)によって、渦鞭毛藻Alexandrium tamarenseの細胞増殖と毒生産が抑制されることを見出した。 【3.時間軸を考慮した生合成・代謝の解析】EdUの抑制ステップを解明するため生合成中間体及び麻痺性貝毒量の変動を定量したが、明暗サイクルの影響による変動の影響と、代謝阻害剤の影響との区別が明瞭でないことが示唆された。そこで、渦鞭毛藻は無機態窒素を利用して生育可能であることを利用して安定同位体標識硝酸ナトリウムの15N取り込み挙動を観察する手法を確立した。既報のカラムスイッチングHILIC-MS法により経時的にサンプリングした安定同位体標識培地培養細胞を分析することで、麻痺性貝毒生合成経路の上流の化合物(アルギニン)から中間体を経て、下流の化合物(麻痺性貝毒)になるにつれて取り込み率が低下することが確認された。また各Isotopomerの分布率の変化を追跡することで、細胞内における存在量の定量だけではわからない窒素代謝の培養時期における変化についても明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
渦鞭毛藻から新たなサキシトキシン生合成酵素を探索するアプローチとして、標識可能な官能基を有する代謝阻害剤EdUの添加実験により、Eduに渦鞭毛藻の麻痺性貝毒生合成阻害作用があることを新たに見出した。さらに阻害ステップを決定するには生合成・代謝サイクルを時間軸を考慮して解析する方法の確立が必要であることがわかったため、安定同位体標識した無機態窒素の取り込み挙動を観察する方法を確立した。この手法は研究計画にはなかったが、今後の研究に非常に有用と考えられLC-MSを用いたmetabolomics研究の進展に大いに貢献できると思われるため順調に進展しているとした。しかしながら反応場の解明と細胞微小化については当初予期しなかった事態により、原因追及の段階であるためおおむね順調とした。すなわち渦鞭毛藻の免疫染色については使用できる抗体がほとんど市販されておらず、動物への免疫から行わなければならない。そこで、データベースに掲載されている塩基配列を参考にペプチド抗体を作成して用いたが、研究開始時に得られていたウサギ由来抗SxtA4ペプチド抗体の免疫染色像と本研究中に作成したモルモット由来の抗SxtA4ペプチド抗体の免疫染色像が異なるという予期しないことが起こったため、その原因を追究することにした。Western blottingによって両抗体から得られたバンドの位置も異なることから、結合しているタンパク質が違うことが示唆された。細胞微小化については代謝阻害剤EdUでBlock and Releaseしたところ、Release後の増殖の回復が速く細胞の微小化がみられなかった。FUdRとEdUの結合状態が異なることが示唆され、より強固に結合させるための添加剤の導入を試みることにした。
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今後の研究の推進方策 |
【1.生合成反応場の解明】渦鞭毛藻A. tamarenseの有毒株と無毒株のウサギ由来またはモルモット由来抗SxtA4ペプチド抗体の免疫染色で検出されたタンパク質のどちらが真のSxtAなのかをWestern blottingとペプチドMSフィンガープリンティングにより解明する。真のSxtAを検出できる抗体を決定した後、他の生合成酵素(SxtGやSxtI)及び麻痺性貝毒の局在と比較してステップごとの反応場を確定する。また免疫電顕により各酵素の局在オルガネラを決定する。 【2.EdUの阻害酵素の探索】がん治療法の一種FOLIFOX法における5-FUの作用増強剤であるレボホリナートカルシウムを添加してEdUの麻痺性貝毒生合成阻害作用も増強されるかどうか調べる。増強された場合EdUが酵素にレボホリナートを介して共有結合されたことが強く示唆されることになる。そこで免疫染色やWestern blottingによってEdUの結合したたんぱく質を検出する。EdUは複数の酵素に結合することが予想されるため、酵素溶液を各種カラムで分画しin vitro実験に供して阻害を示すものを追跡し、生合成酵素を確定する。 【3.時間軸を考慮した生合成・代謝の追跡】天然型のアミノ酸を含まない安定同位体標識有毒株を用いたin vitro反応により天然型のアルギニンや生合成中間体、麻痺性貝毒類縁体を基質として生合成や代謝がどのように進行するかを追求する。 【4.A. tamarense細胞微小化とWGAによるゲノム解析】代謝阻害剤添加系(FUdRあるいはEdUとレボホリナートカルシウム)を用いて再度微小化を試みる。一細胞からWGA法で作成したライブラリーをPCRに供しsxtA, sxtG, sxtIなどの存在を確認する。有毒、無毒株由来の一細胞WGAライブラリーを次世代シークエンス解析で比較する。
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