研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05431
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸山 潤一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (00431833)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 麹菌 / ゲノム編集 / 2次代謝 |
研究実績の概要 |
麹菌Aspergillus oryzaeは日本の醸造産業のみならず、異種タンパク質生産の宿主として世界的に利用されている、産業的に有用な糸状菌である。さらに最近、異種2次代謝産物生産を目的として国内外で使用されるようになっている。本研究では、申請者らが麹菌において確立したゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9システムを発展させ、異種2次代謝産物生産の効率化や生産性向上に利用することを目的とした。 平成29年度は、CRISPR/Cas9システムを利用し、複数の遺伝子を単一の株で改変する技術、ならびに2次代謝生合成遺伝子を導入するための技術を開発した。 最初に、ゲノム編集用プラスミドの自律複製を可能とするために、Aspergillus nidulans由来のDNA断片AMA1の半分にあたる領域を挿入することで、麹菌において50-100%の高い変異導入効率を得ることに成功した。 そして、多重変異導入や多重遺伝子導入を同一の株で繰り返し行うことを目的として、麹菌のゲノム編集用プラスミドのリサイクリング技術を確立した。一度形質転換したゲノム編集用プラスミドを脱落させるため、過剰発現により生育阻害を示す転写因子AoAce2を使用し、誘導性のプロモーター制御下で発現するようにした。その結果、ゲノム編集用プラスミドの脱落に成功し、この導入・脱落の操作を繰り返すことにより多重変異導入が可能になった。 さらに、ゲノム編集用プラスミドとともにドナーDNAを同時に導入することで、標的の遺伝子を破壊するノックアウト、標的とする遺伝子座に外来遺伝子を挿入するノックインをほぼ100%の効率で行うことに成功した。ここでは、標的とする遺伝子座に形質転換マーカーを導入せずに行うため、ゲノム編集用プラスミドをリサイクリングすることにより、遺伝子破壊や遺伝子導入を無限に繰り返すことが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前、研究代表者らが初めて麹菌でCRISPR/Cas9システムを確立した際には、その変異導入効率は高くなかったが(10-20%)、本研究においてゲノム編集用プラスミドを自律複製型にすることにより50-100%の高い割合で変異株取得が可能になった。これは、以降の多重遺伝子改変を効率的に行うために十分に高い割合であり、本研究の目的を達成するための基盤となる成果である。実際に本研究において、標的とする遺伝子座に形質転換マーカーを導入することになしに、高効率のノックインとノックアウトが可能となった。 また、自律複製型ゲノム編集用プラスミドの形質転換において薬剤耐性マーカーを用いることで、形質転換のために栄養要求性の宿主を取得する必要がないようにした。しかし一方で、糸状菌において形質転換用マーカーのリサイクリングは数多く行われてきたのに対し、薬剤耐性マーカーのリサイクリングに関する知見はなかった。本研究では、生育阻害を誘導する転写因子遺伝子Aoace2を同時に利用することで、薬剤耐性マーカーを含むゲノム編集用プラスミドの脱落・再利用を初めて可能とした。 以上のようなゲノム編集用プラスミドのリサイクリングによって、生産させたい異種2次代謝産物の生合成遺伝子をゲノムに導入したうえで、形質転換マーカーの数を気にすることなく、無制限の遺伝子改変が原理的に可能となった。 本研究でのゲノム編集技術の整備は大きく進展しており、次年度に予定している麹菌における異種2次代謝産物の生産性向上に貢献することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題の推進方策については、大きな変更や問題はない。平成30年度は麹菌における異種2次代謝産物の生産性向上を目指した研究を行う。 最初に、ゲノム編集技術による高効率のノックイン技術を利用し、2次代謝生合成遺伝子を複数の染色体部位に導入することで、麹菌における異種2次代謝生合成遺伝子の多重導入技術を確立する。 また、糸状菌において分化と2次代謝産物生産との関連は報告されているが、研究代表者らはこれまでに、麹菌の分化(菌核形成)に関与する転写因子を多く同定している。これをもとに、異種2次代謝産物高生産に関与する転写因子を探索する。 この転写因子に加え、代謝経路の酵素や副反応産物生成の原因となるシトクロムP450をコードする遺伝子を対象とし、ゲノム編集プラスミドのリサイクリング技術により、ノックアウトおよびノックインを繰り返して、異種2次代謝産物の高生産株を作製する。以上により、異種2次代謝産物を高生産する麹菌株を取得し、生合成研究で使用できるようにする。
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