公募研究
本研究は、抗腫瘍性マクロライド抗生物質FD-891のポリケチド合成酵素(PKS)の触媒ドメイン間の相互作用機構を解明し、その知見を生かしたPKS遺伝子改変によりスターター部位の異なる類縁体を生合成することを目指している。まず、スターター部位の生合成に関わるローディングPKSのアシルキャリアープロテイン(ACP)ドメインとアシル基転移酵素(AT)ドメイン、ACPドメインとβ-ケトアシルACP合成酵素(KS)ドメインの相互作用機構を解明するために、分子プローブを用いたクロスリンク反応を検討することにした。クロスリンク反応は、化学合成した6種類のパンテテインミミック、補酵素A合成酵素とホスホパンテテイニル基転移酵素を用いてACPドメインを化学修飾して検討した。結果として、ACP-ATとACP-KSの組み合わせによりクロスリンク反応の条件が異なることを見いだした。酵素遺伝子改変による類縁体創製に関しては、ローディングPKSのATドメインを基質特異性の異なるATドメインと入れ換えることを計画した。現在のところ、KSドメインとATドメイン間、ATドメインとACPドメイン間の明確な境目に関する情報は得られていないため、相同性のある酵素構造情報から境目を推定して入れ換えを検討した。今年度はまず、ローディングPKSのAT遺伝子に耐性遺伝子を挿入してFD-891非生産株を構築した。今後は、この破壊株のAT遺伝子部分を入れ換えて類縁体創製することを検討する。さらに今年度は入れ換えるためのATドメイン配列情報を蓄積するためにFD-891生産菌のゲノム解読を行い、同生産菌が生産する他のマクロライド抗生物質の生合成に関わるPKS遺伝子を特定した。
2: おおむね順調に進展している
ローディングPKSの触媒ドメイン間の相互作用解析に関しては、ACPドメインと触媒ドメインをクロスリンクさせるための分子プローブを見いだすことができたため、クロスリンク化された複合体精製と結晶化検討に向けて目処が立った。また、研究対象としている約110 kDaの酵素タンパク質は比較的安定で、結晶化検討に向けての不安定性の懸念が払拭された。本研究で計画しているATドメインの入れ換えに関しては、標的とするATドメイン遺伝子破壊が容易に行えたため、生産菌の形質転換を再現よく行えることを確認することができた。また、入れ換えるためのAT遺伝子の情報を蓄積することができた。FD-891の生物活性発現には、PKSにより構築されるポリケチド骨格(FD-892)がさらにシトクロムP450酸化酵素GfsFによりエポキシ化される必要がある。いくつかのFD-892類縁体を用いてGfsFの基質特異性を解析した結果、FD-892のスターター部位の含むアルキル側鎖部位の有無はエポキシ化反応にはそれほど影響しないことが明らかになった。したがって、本研究で創製することを計画しているマクロライド骨格のエポキシ化反応も進行することが予想された。
ローディングPKSの触媒ドメイン間の相互作用解析に関しては、ACP-AT間, ACP-KS間のクロスリンク反応条件の最適化を図り結晶化検討に耐えうる量の複合体を精製する。また得られる複合体の結晶化を集中して行い構造解析を試みる。これによりPKS触媒ドメイン間における相互作用に関わるアミノ酸残基を特定し、合理的なPKSエンジニアリング手法を提案したい。酵素遺伝子改変による類縁体創製に関しては、上記の構造解析を待つことなくいくつかの境目での遺伝子組換えを検討してFD-891類縁体を生合成する。また上記の構造解析の知見を活かした合理的なATドメインの入れ換えを検討する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
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