研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05436
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田浦 太志 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (00301341)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メロテルペノイド / 生合成 / カンナビノイド / ダウリクロメン酸 |
研究実績の概要 |
本研究では大麻のカンナビノイド合成酵素(THCA synthase及びCBDA synthase)及びエゾムラサキツツジのダウリクロメン酸合成酵素(DCA synthase)という代表的な植物有用メロテルペノイド生合成酵素についてX線結晶解析による立体構造解明および、これを基盤とした機能的リデザインの実現を目的とする。平成29年度はメチロトロフ酵母(Pichia pastoris)及びタバコ培養細胞BY-2を宿主とした組み換え酵素の高発現及び精製システムの確立を検討し、タバコ細胞では各酵素4~5 mg/Lの精製酵素を得ることができた。一方Pichia pastorisでは収量こそ1 mg/L以下であったものの、遺伝子の多重導入により発現量を向上し、またEndo H処理により結晶化の妨げとなる糖鎖を含まない酵素サンプルの調製にも成功した。生合成酵素遺伝子の多重導入に関してはpPICZAベクターに加えて、選択マーカーの異なるpAO815及びpPIC3.5Kに各遺伝子をサブクローニングした後、Pichiaのゲノムに組み込む手法でカンナビノイド合成酵素及びDCA synthaseのいずれも4コピーの重複導入に成功している。また各酵素の精製に関してはいずれもhydroxylapatiteおよびCM-Toyopearlカラムを用いた簡便な手法を確立した。現在連携研究者である富山大学森田洋行教授との共同研究により得られた精製酵素を用いた結晶化を検討中である。また本年度はDCA synthaseに関する原著論文3件を報告し、研究の基盤整備を行うとともに本研究の評価を高めることができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は各メロテルペノイド生合成酵素の結晶化及び大型放射光施設でのX線回折像の取得を計画していた。現在のところ各酵素とも結晶化条件の確立には至っておらずやや遅れていることは否めないが、構造生物学的研究において律速段階となりえるタンパク試料の調製に関し、簡便なシステムを確立していることから、平成30年度は効率的に研究を進捗させることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は下記項目の達成により各メロテルペノイド合成酵素の機能的リデザインを実現する。 1)結晶構造解析:精製したカンナビノイド合成酵素及びDCA synthaseについて結晶化試薬キットを用い最適な結晶化条件を検討し、リガンドのソーキングにより活性中心プローブを含有した結晶を得る。得られた共結晶について大型放射光施設でX線回折像を取得し、既知FAD結合型オキシダーゼを鋳型とした分子置換法により位相を決定することで分子モデルを構築する。 2)部位特異的変異:各メロテルペノイド合成酵素の活性部位にはプロトンの引き抜きに関与する塩基性アミノ酸やプレニル基を認識し、これを適切に閉環する疎水ポケットなどの構造因子が予想される。リガンドと結合した形で解析した各酵素の構造比較を基盤として、各酵素反応の特徴を決定付けるアミノ酸残基を推定する。次いでこれらのアミノ酸残基に各種の変異を導入し、酵素活性の変化を測定することで基質認識及び閉環反応における当該アミノ酸の機能を確認する。 3)メロテルペノイド構造多様性の拡大:各酵素の基質、即ちプレニル化アルキルレゾルシノールについてシンプルな酸触媒プレニル化反応により合成する手法を確立しているため、これを応用して各種アルキルおよびプレニル側鎖を有する基質アナログを合成する。これら基質アナログを受け入れるよう適切に変異導入した酵素と組み合わせた反応を行うことにより、各種非天然型メロテルペノイドの酵素合成を実現する。酵素機能の改変及び基質アナログの応用により得られる新規化合物についてはその構造をNMR等により解析し、また各種生物活性を検討する。得られた成果について学会発表するとともに学術誌に印刷公表する。
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