研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05437
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
邊見 久 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60302189)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酵素 / 脂質 / 微生物 / 生体分子 |
研究実績の概要 |
メタン生成古細菌Methanosarcina mazeiの持つ3つのcis型プレニルトランスフェラーゼホモログを単離し、そのうち2つがヘテロ型酵素のサブユニットとして機能することを組換えタンパク質を用いて確認した。さらに、もう1つのホモログが幅広い基質特異性を有し、一般的なcis型プレニルトランスフェラーゼのアクセプタ基質であるイソペンテニル二リン酸だけではなく、アリル性プレニル二リン酸やアルコールに対するプレニル基転移反応を触媒できることを明らかにした。特に興味深いのは、同酵素が本来の炭素-炭素結合だけでなく、アルコールを基質とした際にはおそらく炭素-酸素結合の形成を触媒し、エーテル化合物を合成していることである。さらに、同酵素についてはX線結晶構造解析にも成功しており、基質複合体の構造を複数種類明らかにできている。 テトラエーテル型古細菌膜脂質は、きわめて独特な様式のプレニル基間縮合反応による形成が予想されている。放射標識した生合成中間体の還元型アナログを好熱性古細菌Thermoplasma acidophilumに取り込ませることで、テトラエーテル型脂質の合成が起きるか否かを調べた。その結果、わずかにテトラエーテル型脂質の合成が観察された。しかし、これは同基質が代謝分解を経て取り込まれた結果である可能性もあり、慎重な解析が必要である。 プレニル基転移酵素に基質を供給するメバロン酸経路について、新たな中間体を経由する新奇経路を発見し、代謝酵素の機能解析を一部進めた。本発見は古細菌のイソプレノイド生合成を考える上できわめて重要な知見であるだけでなく、新たな中間体を基質としたプレニル基転移反応が古細菌に存在する可能性があること、および同中間体の代謝に関わる推定酵素の中にプレニル基転移酵素ホモログが含まれることの2つの点で本研究に深く関係する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的は古細菌からプレニル基転移酵素などのイソプレン単位間の縮合反応を触媒する酵素群を新たに見出し、イソプレノイドに構造多様性を与えるマシナリーの理解を深めることにある。その意味で、我々がM. mazeiより見出したcis型プレニルトランスフェラーゼは、幅広い基質特異性を示し、同種酵素が通常触媒する炭素-炭素結合の形成だけではなく、炭素-酸素結合の形成を触媒できる興味深い酵素であり、目的にかなった研究対象だと言える。さらに、同酵素についてはX線結晶構造解析を進め、複数の基質を結合した基質複合体の構造を得ることにも成功している。それらのデータを利用することで、同酵素の基質認識機構を理解するだけでなく、さらに幅広い基質を認識するよう酵素を改変することも可能になるだろう。 テトラエーテル型脂質の生合成については未知な部分が多く、その解明は未だ手探りの状態である。したがって、我々が確立した放射標識基質の取り込み系から得られるデータの意義は高い。もしも還元型アナログからテトラエーテル型脂質が直接合成されているのならば、生合成機構の解明に大きな示唆を与える発見である。 古細菌のメバロン酸経路における新奇中間体の存在については、イソプレン単位間縮合反応に直接関係する可能性は低いものの、古細菌のイソプレノイド生合成を理解する上できわめて重要な発見である。また、メバロン酸経路への関与が予想されている新奇プレニル基転移酵素の存在は、酵素の分子進化を論じる上で興味深い存在だと言える。
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今後の研究の推進方策 |
幅広い基質特異性を示すM. mazei由来のcis-プレニルトランスフェラーゼについては、様々な基質を用いた酵素反応において複数の未知化合物の合成が検出されている。まずはそれらの構造決定を質量分析により、また、必要に応じてNMR解析を行うことで進める。また、我々が明らかにした同酵素のX線結晶構造をもとに、基質認識機構の解明や、変異導入による基質特異性の改変を進める。また、同酵素の生理機能は不明であるため、その解明も進めたい。M. mazeiやその近縁種が特異的に生産するイソプレノイド炭化水素の生合成に同酵素が関与している可能性も考えられる。推定される基質を様々な組み合わせで与え、生成物を分析することで、同酵素の本来の基質と機能を明らかにする。 テトラエーテル型脂質の生合成については、現在放射標識した取り込み基質の合成を酵素の利用に頼っており、そのため純度や構造の自由度の制限が問題となっている。そこで単純な構造の基質前駆体を有機合成し、そこからの酵素合成によって純度の高い様々な基質を取得する。それらのテトラエーテル型脂質への取り込み効率を観察することで、同脂質の生合成、特にプレニル基間縮合反応に関する新たな知見を得る。また、我々は最近、より長鎖のプレニル側鎖を持つ古細菌膜脂質の生合成経路を明らかにしている。同経路の中間体を基質とした取り込み実験を進めると共に、古細菌膜脂質プレニル側鎖のさらなる伸長とその大腸菌での生産にも取り組みたい。 古細菌の新奇メバロン酸経路については、新奇プレニル基転移酵素の同経路への関与を証明するための生化学的な解析を進める。また、同経路中に見出された新奇中間体が既知プレニル基転移酵素の基質となる可能性についても検討を進める。
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