公募研究
植物のプレニル化フェノール類は、抗腫瘍、抗酸化、抗菌活性など多様な生理活性を持ち、機能性食品や医薬品原料などとして極めて有望である。一方、自然界におけるこれらプレニル化フェノール類の含量は一般に低く、しかも複雑な混合物で存在するために単離にコストがかかる。こうした背景のもと、高効率の生産系の確率は、基礎研究分野のみならず、産業外においても望まれている。本研究では、ブラジル産のキク科低木 Baccharis 属植物の代表的生理活性成分 artepillin C の生産を、国産植物の遺伝子を用いた合成生物学で達成することを目指している。本年度は、プレニル化酵素には、カワラヨモギ由来のユニークなジプレニル化酵素遺伝子 AcPT1 を用い、またその基質の p-クマル酸は、他植物の3遺伝子、すなわち PAL、4CL、CPR を用いて生合成リデザインを行った。p-クマル酸を酵母で生産させる PAL、4CL、CPR の3遺伝子は、ガラクトース誘導性プロモータの下流に組み込み、そこにさらにプレニル化酵素である AcPT1 もがラクトース誘導性プロモータの下流に導入して、artepillin C の生産を試みた。その結果、p-クマル酸は期待通りに高生産することができたが、全長の AcPT1 を使った時にはほとんどそのプレニル化体は得られなかった。そこで AcPT1 のN-末端の推定トランジットペプチド配列を削除することで、p-クマル酸のモノプレニル体の drupanin の生産が見られた。さらに、コドンユーセージを出芽酵母にすることでさらにプレニル化効率を上げることができた。この他、酵母からのプレニル化フェノールの抽出方法を至適化するなどを行い、現在では drupanin と並びartepillin C の生産に成功している。
2: おおむね順調に進展している
初年度のトライアルとして、途中様々な障壁はあったが、それらを一つ一つ乗り越えることができて、結果として計画通りにartepillin C の生産に成功したため、おおむね順調に進展している、という判断にした。
計画では、次年度には生産されたプレニル化化合物の引き抜きに効果があると期待される、lipid transfer protein (LTP) を共発現させることを行う計画である。遺伝資源としては、artepillin C の誘導体を生産しているカワラヨモギを選択する。既に、カワラヨモギのRNA-Seq データからフラグメントを含め、数多くの LTP 遺伝子のピックアップを終了している。ただし数が多いため、優先順位をつけてクローニングを行い、順次 artepillin C 生産性酵母に導入するが、その優先順位は、RNA-Seq の FPKM 値の大きいもの、さらにプレニル化フェノールの多い茎葉で特異的に発現している分子種から優先的に選んで、順次発現ベクターに組み込むこととする。もう一点、この1年間研究を進めてきた過程で、プレニル化酵素のアクセプタ基質である p-クマル酸の組換え酵母における生産性は高いものの細胞外排出効率が高すぎて、AcPT1 が十分にp-クマル酸を細胞内で利用できていない可能性が高いことが明らかとなった。この新知見により、酵母内在性の生体異物の排出ポンプのいずれかが、p-クマル酸に親和性が極めて高いことが示唆された。今後は、酵母内在性のどの排出型輸送体がp-クマル酸の排出に主に関与しているかを突き止め、その活性を制御することにより、さらに高効率の artepillin C 生産が可能になるものと期待される。この実験も合わせて行なっていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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