アンモニアを嫌気的に酸化するアナモックス菌は、ユニークな梯子状疎水基を持つラダラン脂質を産生する。この梯子構造は大きな歪みを持つ4員環を複数持つため、化学合成は困難であり、その生合成マシナリーには複雑骨格機能分子の創成につながる重要な構造基盤が備えられている。ラダラン脂質の梯子構造を生合成するメカニズムの大部分は未解明であるが、アシルキャリアータンパク質(ACP)に結合した前駆体がフィトエン不飽和化酵素によって多価不飽和化され、さらにSAM依存性メチル化酵素(SAM MTase)やラジカルSAM酵素(RS酵素)が梯子構造を構築すると提案されている。本研究ではアナモックス菌のラダラン脂質生合成に関与すると推定されるSAM MTaseの結晶構造を1.7Å分解能で決定した。また、同じくラダラン脂質の生合成の鍵酵素と推定されるRS酵素の大量発現を行い、嫌気的な条件で鉄-硫黄クラスターを再構成した。再構成した鉄-硫黄クラスターが4Fe4S型であることをEPRスペクトルで確認した。さらに、このRS酵素はアミノ酸配列からコバラミン結合部位を持つと推定されているため、コバラミンの再構成の条件検討を行い、ほぼ定量的にコバラミンを再構成することができた。RS酵素の結晶化条件の再検討の結果、3.7Å分解能の回折を確認できる単結晶を得た。フィトエン不飽和化酵素の大腸菌による発現条件検討を網羅的に進めた結果、大量発現は可能であったが、大部分がsoluble aggregateとして得られたため、発現系の再検討が必要である。
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