公募研究
生合成によりテルペン類を自在合成するためには、マクロからミクロに至る生合成関連分子種(ゲノム、酵素、基質)の構造・性質・反応機構を理解し、それらをもとに精密な設計図を描くことが鍵となる。本研究ではテルペン生合成機構を探るためのプローブ合成法を確立し、テルペン生合成酵素の機能を明らかにすることを目的とする。具体的には、重水素化(D化)プローブや従来合成が困難であった、長鎖ポリイソプレノイド類の立体選択的合成、ならびに、Z-オレフィンが混在する鎖状テルペン類の合成を行う。H29年度は次の2つの研究に取り組み、その成果を論文発表した。(1)長鎖イソプレノイドを基質とする枯草菌由来のテルペン生合成酵素の機能解析表題のテルペン合成酵素はC25,C30,およびC35の炭素鎖を有する全トランス型のイソプレノイド類を基質とする長鎖テルペン合成酵素である。本酵素の機能を解析するために、基質となる鎖状テルペンをスルホンカップリング法と立体選択的脱スルホン化反応により合成した。それらを酵素と反応させたところ、対応するプレン類にそれぞれ変換できた。また、酵素の結晶構造解析を共同研究として実施し、その解析に成功した。(2)重水素化プローブを用いたシクロラバンジュロールの生合成機構の解析環状モノテルペノイドの一種であるシクロラバンジュロールの生合成を触媒する酵素の機能解析を行った。反応基質となる3-メチルー2-ブテンの2つのメチル基の水素すべてを重水素に置換したプローブを合成し、酵素反応を行った。生成物に分布する重水素の位置を解析することで本酵素がプロトン移動を含む反応機構で進行していることを提唱した。炭素10個からなるテルペン類においてプロトン移動機構が見出された初めての例である。
1: 当初の計画以上に進展している
2つのテルペン合成酵素の機能と構造解析にかかる成果を論文に発表できたことは大きな成果である。Z-型オレフィンを含む鎖状テルペン合成も軌道に乗り始めており、計画以上に研究が進展している。
長鎖イソプレノイドを基質とするテルペン生合成酵素の基質認識機構の詳細を探るために、長鎖イソプレノイドのダミーとなる基質を設計・合成し、それを用いた複合体形成と結晶構造解析を共同で進める。これと並行して、新規マイコバクテリウム属細菌由来のテルペン類の生合成基質となるZ-型オレフィンを複数含有するC35鎖状テルペンの合成を試みる。具体的には、ゲラニルゲラニオールから出発原料し、一炭素増反、ブロモ化、アセチレンを含むC4単位の増炭、鉄触媒を用いたMeMgBrの付加を1サイクルとする工程を繰り返す。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Chemical Science
巻: 9 ページ: 印刷中
10.1039/C8SC00289D
Angew. Chem. Int. Ed.
巻: 56 ページ: 14913~14917
10.1002/anie.201708474
http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/chem/henkan/