研究領域 | 光圧によるナノ物質操作と秩序の創生 |
研究課題/領域番号 |
17H05458
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
雲林院 宏 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (40519352)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光トラッピング / 光圧 / プラズモン導波路 |
研究実績の概要 |
初年度は、プラズモン導波路上でのナノオブジェクト光トラッピングの可能性を検証した。本研究においてプラズモン導波路としては、化学的に合成した減衰係数の低い径100ナノメートル、長さ10から20 マイクロメートル程度の銀ナノワイヤーを用いた。連続発振(CV)レーザーで励起された伝搬プラズモンでは、水溶液中に分散した直径数百ナノメートル程度の粒子(サブマイクロ物質)のトラッピングは観測されたが、径100ナノメートル以下のナノ粒子のトラッピングは観測されなかった。反して、ピークパワーの高いフェムト秒パルスレーザーを用いて伝搬プラズモンを励起した場合、特に 2つの異なる波長のフェムト秒レーザー光を伝搬させたときには、ナノ物質(直径5ナノメートル程度の量子ドットナノ粒子)のトラッピングが観測された。ナノワイヤー先端に集光することで伝搬プラズモンを励起すると、導波路上で2つの波長の非線形光学現象(和収差、4波混合など)が引き起こされる。 2次の非線形光学現象である和収差に共鳴する量子ドットは導波路の両端のみにトラップされるが、3次の非線形現象である4波混合と共鳴する量子ドットは導波路全体にトラップされる現象を見出した。量子ドットは電子励起されると金属構造に化学的に付着するため、光トラップと化学的トラップの区別が困難であるため、今後、金ナノ粒子やナノダイヤモンドなど反応活性の低いナノ物質を用いてさらなる検証を行う必要があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
伝搬プラズモンを利用した光とラッピングの例はほとんど報告されていない。そのため、初年度はまず伝搬プラズモンによる光とラッピングの可能性を探った。ナノリソグラフィーで作成した金プラズモン導波路では、伝搬効率が低いため、光とラッピングを行うのに十分な光量が得られないことが明らかとなったため、伝搬効率の良い化学合成で作成した銀ナノワイヤーを導波路として用いた。その結果、伝搬プラズモンによって物質の光とラッピングが可能であることが明らかとなった。また、フェムト秒レーザーを用いて伝搬プラズモンを励起することにより、更に効率よく光とラッピングが可能であることを確認した。特に、2つの異なる波長のフェムト秒レーザー光をプラズモン導波路に伝搬させた場合には、導波路上で2つの波長が混合する非線形光学現象が引き起こされることも見出した。その非線形光学現象によって、光トラップの場所依存の制御の可能性を初めて見出した。このことは全く新しい発見であり、実現可能であれば、非線形光学現象の次数によって、ナノ物質を特定の位置に配置することが可能となると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
非線形光学現象を用いたプラズモン導波路上の光トラップを、水に分散した量子ドットナノ粒子を用いて検証したが、量子ドットナノ粒子は貴金属ナノワイヤーと電荷移動をおこして化学的に結合してしまうことが明らかとなった。そのため、プラズモン励起を停止した場合(光トラップ力がない状態)でも、量子ドットナノ粒子は導波路上に付着したままであり、取り除くことが不可能である。そのため、光圧によって量子ドットナノ粒子がトラップされたのか、電荷移動によってトラップされたのかの区別が困難である。初年度に観測された非線形光学現象の次数によるトラップ箇所の選択性の機構を解明するため、次年度は化学的に安定なナノ粒子(例えば金ナノ粒子)を用いた検証を行う。また、理論計算による非線形光学現象による光トラップの機構解明を目指す。
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