研究領域 | 光圧によるナノ物質操作と秩序の創生 |
研究課題/領域番号 |
17H05470
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
今田 裕 国立研究開発法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 研究員 (80586917)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光圧 / 分子操作 / 走査プローブ顕微鏡 / プラズモン-励起子結合 / 単分子発光分光 / 単分子吸収分光 |
研究実績の概要 |
個々の原子・分子を固体基板上に自在に配置し、デザインした機能を発現させる事は基礎科学のみならず応用を見据えた研究展開においても重要な課題である。ボトムアップのアプローチとしての走査トンネル顕微鏡(STM)を用いた分子操作は広く発展してきているが、STMと光圧を組み合わせた “光”分子操作は実現されていない。本研究の目的は、分子固有の共鳴吸収線を活用してSTM環境下で光分子操作を実現する事である。 固体基板上で分子の光マニピュレーションを実現するためには、分子固有の遷移エネルギーに共鳴する光を照射する事が必要である。単一分子の共鳴を調べる手法として、本年度はSTM発光分光を応用した単一分子吸収分光法を確立し報告を行なった(Phys. Rev. Lett. 119 (2017) 013901)。この手法は、STM探針と金属基板とのギャップに局在する表面プラズモンを、STMのトンネル電流で励起し、その局在プラズモンを励起源に用いて単一分子に相互作用させることで分子の吸収特性を計測するものである。 また本年度は、分子の共鳴にチューンした光の照射を実現するため、波長可変レーザー(Ti:S, 波長可変域700-1000 nm)を新しく導入し、既存の光STM装置への組み込みを行った。導入は問題なく完了し、光照射下でも数mW以下であれば単一分子のSTM観察や走査トンネル分光法(STS)が可能である事が確認された。 実験研究に並行して、理論研究者との共同研究も推進している。特に本年度は、STM探針と基板の間に局在するプラズモンと分子の相互作用に関する理論シミュレーションやモデル計算から、分子に印加される光圧の定量的見積もりと最適実験パラメータの割り出しに着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低温下では、分子の共鳴が非常に尖鋭化されるため、低温STM内で分子の光操作を実現するには波長可変レーザーが必須である。本年度は、実験に最適なレーザーの選定から導入までを完了し、次年度以降の実験基盤の整備を行った。 レーザーの波長可変域に合わせて選定した複数種の分子を試料に用いて、低温STM内でフォトルミネッセンス計測を行った。照射レーザー波長を掃引すると、特定の波長で分子由来の強い発光が観測された。発光スペクトルの形状から推察すると、基底状態から第一電子励起状態の振動励起状態への遷移によって共鳴吸収が生じていると結論する事ができる。 吸着分子に対して光の運動量を伝達することが可能出る事を示す結果を得る事が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
共鳴吸収が生じる条件でレーザー強度を上げれば、輻射圧が強くなると考えられる。フォトルミネッセンスの励起強度依存性を測定するとともに、輻射圧による分子移動の有無を走査トンネル顕微鏡による観察で明らかにする。レーザー光照射だけでは分子移動が誘起できなければ、基板を加熱し熱的に拡散障壁を低減させ分子移動を実現する。
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