公募研究
Ruddlesden-Popper型ペロブスカイト物質であるPb3Fe2O5F2について中性子粉末回折実験を行い、結晶構造および磁気構造解析を行った。この物質は酸化物ペロブスカイトにフッ素が置換された複合アニオン化合物であるが、メスバウア効果測定やbond valence sumから置換されたフッ素は八面体の頂点位置に秩序配位していると考えられている。490 Kに磁気転移、375 K付近に構造転移と磁気転移を示し、これらの各相の結晶構造解析、規約表現を用いた群論に基づいた磁気構造解析を行った。その結果、空間群は複合アニオン化することでらせん軸を含むこと、高温相のab面内磁気モーメントは375 Kの転移を経てc軸方向に再配向することを突き止めた。現在、第一原理計算を行っており、結晶場の観点からこの機構の解明を目指している。鉄系梯子型物質BaFe2(S,Se)3について、母物質の磁気揺動について調べた。この物質群は中性子回折からも磁気秩序の存在が明らかになっているが、磁気転移温度で比熱に異常が見られないことや、短距離相関の存在、時間スケールの異なるメスバウアと中性子では磁気転移温度が異なるなど低次元性を反映した特徴が見られる。このような磁性のゆらぎ時間を定量的に捉えることを目的として中性子、ミュオンを用い、8桁に渡る時間変化を追った。その結果、磁気転移温度以下においても動的磁性の成分は残り、40 K程度まで保持されることがわかった。この梯子-梯子間のエネルギースケールに対応する温度以下で磁性が準静的になることを突き止めた。また、最近のSHG測定からは磁気転移に付随して点群が破れることが明らかになったため、その結果に基づいて結晶構造、磁気構造の再解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究は中性子を用いた複合アニオン化合物の結晶構造、磁気構造解析を柱としており、「研究実績の概要」欄に挙げた物質以外にも領域内での共同研究を進めている。実際に新奇鉄系化合物についてもすでに中性子回折実験を行っており、現在解析を進めている。また、中性子以外を用いた研究として、試料合成や誘電率測定装置の立ち上げも行っており、中性子を用いた構造解析と相補的な研究を進めている。
鉄系梯子型物質の混晶系BaFe2(S,Se)3について、中性子粉末回折実験をオーストラリアANSTOで行う。実験プロポーザルは既に採択済である。この実験によって、Se側の空間反転対称性の破れたブロック磁性とS側の圧力下で超伝導を示すストライプ磁性が繋がり、梯子型超伝導の機構解明に近づくことができる。また、Ruddlesden-Popper型ペロブスカイトPb3Fe2O5F2について、第一原理計算から交換相互作用を見積もり、スピン波計算を行った上で中性子非弾性散乱を行い、磁気転移の機構を探る。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
Physical Review B
巻: 95 ページ: 134412/1-10
10.1103/PhysRevB.95.134412
Journal of Physics: Conference Series
巻: 828 ページ: 012004/1-7
10.1088/1742-6596/828/1/012004
巻: 862 ページ: 012011/1-11
10.1088/1742-6596/862/1/012011
http://www.imr.tohoku.ac.jp/kinken-mapping/00-201707.html