公募研究
複合アニオン系の定義や意義について定まったものはないが、申請者は錯体の中のいわゆる錯イオン(陰イオン)の新しい組成探索と捉えている。錯イオンの多くは中心金属の周りに八面体配位などの形状で酸素などの軽元素が結合し、全体で一つの陰イオンを作る。この負電荷と骨格となる陽イオン(多くは他の金属)がイオン結合をしている。複合アニオン系では錯イオン中の軽元素を複数種混ぜ合わせることで新しい機能の発現、新しい学理の発現が期待されている。基本的に化学系の研究者による新奇合成と機能探索が先行するが、意図的に混合させた軽元素の絶対量を決定することは容易ではなく、本研究では静電加速器を用いたdE-E telescope ERDAの他、深さ分解能に優れるTOF-E telescope ERDAの開発によって組成決定に寄与している。複合アニオン系で使われる軽元素には水素も頻繁に使われるが、上記のイオンビーム分析法では水素に感度がないか、もしくは小さくかつ再現性がないという問題がある。平成29年度においては前方30°反跳のdE-E telescope ERDAに前方45°の位置にストッパフォイル型の半導体検出器を付加的に設置することで100%の水素および重水素の検出効率を実現することができた。一方、本来のTOF-E telescope ERDAによる水素検出にむけ、東京大学素粒子センターの協力の下、小型ワイヤーチェンバーの製作と筑波大学内の1 MVタンデトロンによる1~2 MeVの水素イオン検出実験を行い、3次元トラックの取得に成功した。このときのワイヤーチェンバー中のArガス圧は50,000 Paと大気圧に近いものを用いたため、今後は酸素や窒素なども測定できるよう、より低い圧力での実験を進める。
1: 当初の計画以上に進展している
dE-E telescope ERDAは入射イオン(本研究では多くの場合40 MeV Cl(7+))により反跳された軽元素(フッ素、酸素、窒素、炭素、リチウム)について、運動エネルギーのみならず、元素を識別する能力を持つ。識別には半導体検出器の前段に設置したArを用いた電離箱でのエネルギー損失を用いる。水素についてはArとの相互作用が極めて小さいためノイズとの切り分けができず、事実上測定することができなかった。それを3次元軌跡を追跡する新しいTOF-E telescope ERDAの開発により克服するのが当初の目的であった。平成29年度はワイヤーチェンバーにより水素の3次元軌跡を観察することに成功し、初年度としては順調に進んでいる。一方、dE-E telescope ERDAに付加的な半導体検出器を組み合わせることで100%の水素検出が可能となるアイデアを考案し、当初の目的自体は全く別の方法で実現することができた。そのため、3次元軌跡による水素検出は順調に推移しているほか、他の方法で予定以上の正かを上げることができたため、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
当初目的は初年度において別のアイデアで達成しているが、TOF-E telescope ERDAは深さ分解能に優れるなど別のメリットがあるためこのまま開発を継続する。2つのMCP (Micro channel plate) でスタート・ストップ信号を作り、飛行時間を測定したうえで後段の半導体検出器でエネルギーを測定する従来型のTOF-E telescope ERDAを開発するほか、TOF管の中を希ガスで見たし、複数の比例計数管ワイヤー(アノードワイヤー)で反跳粒子の3次元軌跡を分析するタイプの検出器開発を進める。これまで水素を検出するテストに特化した仕様にしていたためTOF管の中のAr圧力をほぼ1気圧にしていたが、この条件では他のやや重い元素はすぐにエネルギーを損失してしまい十分な長さの軌跡を得ることができない。そのため水素を検出しつつ、かつフッ素、酸素、窒素、炭素、リチウム等の軽元素を同時検出できるようなより低いAr圧力やTOF管の長さ設定などを模索していく。また、多チャンネルの比例計数管を低ノイズで動作させるための小型プリアンプの設計、TOF管中への設置などの細かい仕様も合わせて設計・製作を進めていく。
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http://www.tac.tsukuba.ac.jp/~sekiba/