公募研究
本研究計画は、複合アニオン化合物の非自明な電子状態を理論的に解析することを通して、高機能物性の発現を目指し、さらには新しい物質設計を目指すものである。本年度の成果のひとつは、高い熱電性能を持った複合アニオン化合物を理論設計したものである。対象はLnOPnCh2であり、これはLaOBiS2のように超伝導体としてもよく知られており、近年は熱電物質としても注目を集めている物質群である。第一原理計算に基づいた理論解析の結果、Pnとして軽い元素を、Chとして重い元素を用いることでかなり高い熱電性能を示し得ることがわかった。これは擬一次元的gapped Dirac coneの構造に起因したものであり、一般的に優れた設計指針となりうる概念である。本成果はPhysical Review Applied誌に公開された。また別の成果として、複合アニオン化合物も含めてより広い物質群において、超伝導性を向上させるための理論設計指針を確かめた。これについては、次年度以降も現実の物質群においてどのような形で実現しうるかを調べていく。また、複合アニオンも含めた強相関物質を記述することのできる有効模型の解析も行った。van Hove特異点とフェルミ準位の関係について、強相関効果を入れた際にどのような変調が起きうるかを解析した。ここでは、研究題目にある動的平均場理論を用いた。さらに、新学術領域内の実験グループと連携することで、新規複合アニオン化合物の電子状態の理論解析を行った。その結果、たとえばバナジウム酸水素化物において特異な次元性や物質機能が生じうることが明らかになった。また、実験的に合成された新規熱電物質の示す物性の理論的評価をおこない、それがどのように解釈されるかも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の想定以上に、様々な複合アニオン化合物の理論解析をおこなうことができた。そうした理論解析を通して、アニオンが複数存在することをどのように活かすかの設計指針に関するヒントも得ることができた。さらにその結果として、高機能物性の発現に関する理論的予言も具体的な物質に対しておこなうことができた。これらの研究は、熱電効果、超伝導、など様々な物質機能に関わるものである。また、新学術領域内の実験グループとの共同研究も当初想定以上に活発におこなうことができた。その一方で、当初想定していた研究計画自体とは少し違う方針の解析を進めたことになる。ただしこの点に関して、新学術領域内の実験グループとの共同研究を通して、当初計画で想定していた物質機能の発現を目指した物質設計をおこなうための道筋も見いだすことができたので、それを次年度以降に活かしていきたい。
平成29年度に見いだすことができた物質設計指針について、それをさらに推し進めた理論研究をおこなう。具体的には、熱電物質の理論設計について、他の候補物質においても同様の指導原理が適用できるかを検証する。その際には、第一原理計算を用いてその性能評価を理論的におこなう。また、高い超伝導転移温度を示しうる物質についても、理論的に様々な可能性を検証したい。特に、複合アニオン化合物ならではの多軌道性が関連した物理について、第一原理計算および有効模型の理論を用いた解析をおこなう。一般的に複合アニオンで生じる多軌道性は、通常の酸化物よりも複雑なものであり、その解析および物質機能発現のための活用は必ずしも容易ではない。また、複合アニオン化合物自体も実験的に未開拓な領域が広く、その物質機能についてまだわかっていないことも多い。そのため、理論的にも様々な方面からの検証を通じて、その非自明な物性を明らかにし、活用することを目指していきたい。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 6件、 招待講演 6件)
Chemistry of Materials
巻: 30 ページ: 1566-1574
10.1021/acs.chemmater.7b04571
Physical Review B
巻: 97 ページ: 014516(1-11)
10.1103/PhysRevB.97.014516
Physical Review Applied
巻: 8 ページ: 064020(1-12)
10.1103/PhysRevApplied.8.064020
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 86 ページ: 114706(1-6)
10.7566/JPSJ.86.114706
Europhysics Letters
巻: 119 ページ: 26002(1-5)
10.1209/0295-5075/119/26002
巻: 96 ページ: 184513(1-8)
10.1103/PhysRevB.96.184513