研究領域 | 複合アニオン化合物の創製と新機能 |
研究課題/領域番号 |
17H05483
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
片桐 清文 広島大学, 大学院工学研究科, 准教授 (30432248)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 複合アニオン化合物 / 酸窒化物 / 光触媒 / 層状複水酸化物 / 液相プロセス |
研究実績の概要 |
複合アニオン化合物は、酸化物などの単アニオン系とは根源的に異なる革新的機能が発現する。例えば光触媒においては、水の可視光完全分解が窒化ガリウム-酸化亜鉛(GaN:ZnO)固溶体酸窒化物で達成されている。しかし、GaN:ZnOの合成は一般的には高温アンモニア気流下での熱処理が必要なため安全性に懸念があるうえ、合成試料中に組成ムラが生じるなど、いまだ改善すべき点も多い。 本研究課題では、液相プロセスを活用したGaN:ZnO固溶体酸窒化物光触媒の新規合成法の開拓とその特性評価を目的としている。具体的には、GaN:ZnOの前駆体として従来用いられてきた酸化物ではなく、ZnとGaからなる層状複水酸化物(LDH)を液相プロセスで合成することで、前駆体中でZnとGaを均一に分布させ、組成ムラのないGaN:ZnOの合成法を開拓する。またLDHから酸窒化物への転換反応には、尿素などの窒素含有固体低分子を採用し、従来法より簡便な装置で安全に合成する方法を開拓する。 平成29年度は、まずGaN:ZnOの前駆体として用いるZn-Ga LDHを液相プロセスにて再現性よく合成する方法について検討を行った。既報を参考にして再現性よくZn-Ga LDHを合成できることを見出した。また、Zn-Ga LDH中のZn:Ga比のチューニングについても検討した。次に窒素源として尿素を用い、窒素気流下での熱処理によって Zn-Ga LDHをGaN:ZnOへ転換することを試みた。反応温度や時間等を検討し、金属イオンに対する尿素のモル比について詳細に検討を行った。さらにZn-Ga LDHを前駆体として用いることの優位性を証明するため、酸化物であるGa2O3、ZnOと尿素を固相で混合したものを前駆体とした参照実験や、反応メカニズムを解明するためにZn-Ga LDHと尿素を混合せず反応ボートに並列において反応させる参照実験も実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
GaN:ZnOの前駆体として用いるZn-Ga LDHを液相プロセスにて再現性よく合成することができ、Zn-Ga LDH中のZn:Ga比も反応の仕込み組成で制御できることが分かった。尿素を窒素源に用いたZn-Ga LDHからGaN:ZnOへの転換については、反応温度が低すぎるとZnCN2が、高すぎるとZnGa2O4が副生するが、反応時間を含めて最適化を行うことでGaN:ZnOが単相で生成する温度を見出すことができた。また、Zn-Ga LDHでなくGa2O3、ZnOを前駆体に用いた場合はGaN:ZnOを単相で得ることは困難であることが分かった。得られたGaN:ZnOを詳細に分析したところ、Ga2O3とZnOの混合物をアンモニアガス中で焼成する従来法で合成したものと比較して、本手法で合成したものはZnとGaの組成ムラがほとんどなく均一であることが分かった。これらの結果より、Zn-Ga LDHを前駆体とし、尿素を窒素源とすることで、組成の均一性が高いGaN:ZnOをより簡便に合成することを達成できたといえる。 さらに、当初は平成30年度に実施予定であったZn-Ga LDHナノ粒子の合成とそれを用いたGaN:ZnOナノ結晶への転換についての検討も予定を前倒して実施し、これも実現できた。 以上を総合的に勘案し、本研究は当初の計画以上に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究において、Zn-Ga LDHの液相プロセスによる合成と、それを前駆体にし、尿素を窒素源にしたGaN:ZnOの合成を達成している。これまではX線回折法による解析が中心であったが、より詳細な反応メカニズムの解析が必要であると考えている。そこで領域研究の強みを活かし、本研究領域の計画研究や他の公募研究のメンバーとの共同研究を積極的に実施し、様々な手法で尿素を窒素源とする本合成プロセスにおける反応メカニズムや得られたGaN:ZnOの構造について詳細に解析していく。 また、GaN:ZnOは水分解光触媒として期待されている材料であるので、その活性評価を実施し、従来法で合成したものと本合成プロセスによるものとの比較検討を実施していく。 さらに、尿素を窒素源とする酸窒化物の合成について、GaN:ZnOだけでなく、ペロブスカイト型酸窒化物にも展開し、本手法を様々な物質の合成に適用していくことを目指す。 これらについて本研究領域メンバーとの有機的連携を積極的に実施し、本研究領域が目的としている複合アニオン化合物に関する新しい学理の構築に資するよう研究を推進していく。
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