本年度の主な研究成果として,磁性物質との比較物質として偶然得られた新規酸硫化物を報告する.本研究に先立ち報告された鉄酸硫化物SrFe2S2OはFe中心の多面体が稜共有で連なったスピン二重鎖を形成している.過去の報告では逐次相転移が観測されたが原因は未解明のままであった.当初,その起源を探るために非磁性の参照物質SrZn2S2Oの合成をフラックス法にて試みた.その結果得られた組成は期待通りではあったが,構造は全く異なる極性構造であることがX線構造解析により明らかになった.Znは2つの異なるサイトを有し,どちらも3つの硫黄原子,1つの酸素原子に囲まれた歪んだ四面体配位を形成している.Zn中心四面体はSr原子で遮られる形でab面内で二重鎖を作り,さらにウルツ鉱構造で見られるような最密充填方式でc軸に互い積層したインターグロース構造をとる.紫外可視吸収スペクトル測定の結果,3.86 eVのエネルギーギャップを持つことが分かった.さらに,第一原理計算により,直接遷移型であることも明らかになった.反転対称の無い物質に対して第二高調波発生 (SHG) が期待されるが,本物質はSHG活性であることはもちろん,位相整合を満たすことが粉末測定法で判明した.SHG信号強度もベンチマーク物質であるKDP (KH2PO4)の二倍に匹敵する,応用上重要な結果を得た.これまでに報告されている極性物質CaZnSOは位相整合を満たさないこととは対照的であり,今後位相整合と構造の関係を探っていく予定である.
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