公募研究
重篤あるいは慢性的な障害をうけた肝臓では、組織中の肝幹/前駆細胞の活性化(胆管リモデリング)が誘導され、再生を担う。本研究では、我々が独自に開発した p53遺伝子強制発現による肝障害・再生モデルを中心に、胆管リモデリング ならびに 肝幹/前駆細胞/胆管(LPC/BEC)から肝細胞への分化を介した再生応答が惹起されるまでの一連の過程の制御機構を細胞・分子レベルで明らかにすることを目的としている。平成29年度には、主に以下のような成果を得た:・p53遺伝子を強制発現させた生体マウス肝臓では、細胞周期停止・細胞老化誘導経路に関わるCDK inhibitor p21、アポトーシス経路に関わるBax、Puma、Killer/DR5等の発現が誘導されていることを確認した。このうち、組換えAAVベクターを用いてp21遺伝子のみを強制発現させた場合には、LPC/BEC由来の肝細胞の出現は認められなかったことから、こうした現象の誘導にはp21による肝細胞の増殖抑制以外のp53標的遺伝子・下流経路が(も)関与することが明らかとなった。また、p53を強制発現した肝臓ではマクロファージの顕著な集積が認められた。そこで、クロドロン酸リポソームによるマクロファージ除去処置を行ったところ、LPC/BEC由来の肝細胞の出現が抑制される傾向が観察された。これにより、p53により誘導された肝細胞死に応答して、これを貪食したマクロファージから放出されるダイイングコードが関与する可能性が示唆された。・障害時の胆管リモデリング誘導に関わる Thy1陽性門脈域線維芽細胞の活性化が、肝障害モデルの病態に応じて異なっており、さらに胆管リモデリングの構造的な違いと相関することを見出した。これにより、胆管リモデリングの多様性を生み出す細胞レベルのメカニズムの一端を明らかにし、国際誌において報告した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた解析を、おおむね予定どおり実施し、十分な成果と新たな知見を得ることができた。組換えAAVベクターを用いたp53変異体遺伝子の生体マウス肝臓への導入・細胞系譜解析実験の結果、当初の予想に反し、エピトープタグを付加したp53変異体を用いた場合にはLPC/BECから肝細胞への分化を誘導できない可能性が明らかとなった。研究遂行上、この現象の再現性を確認し、その本質を見極めることが重要かつ不可欠であると考えられたことから、繰越を行った。その後の追加での解析から、当該事象に関して今後の実験遂行上は特に考慮する必要がない旨を確認した。
当初の研究実施計画に沿って推進するが、以下の事項については特に重点的に解析を進める:・p53遺伝子を強制発現したマウス肝臓 および コントロール肝臓をもちいて網羅的遺伝子発現解析(RNA-Seq解析)を実施する。これにより取得したデータの解析から、胆管リモデリング ならびに LPC/BECからの肝細胞分化の誘導に関わるダイイングコード候補を抽出して、それらの機能を解析する。・これまでに見出してきた胆管リモデリングの構造的・機能的な多様性を生み出すメカニズムについて、さらに分子レベルで明らかにすることを目指す。とりわけ、これまで胆管リモデリングを誘導する外部からのシグナル・液性因子についての研究は広く行われているものの、細胞内のシグナルについては不明な点が多く残されている。そこで、胆管上皮細胞の動態制御に関わるメカニズムについて、転写因子を中心とした細胞内分子に注目した機能解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Hepatology Communications
巻: 1 ページ: 198-214
10.1002/hep4.1023
Nature Communications
巻: 8 ページ: 16017
10.1038/ncomms16017
http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/cytokine/