障害をうけた肝臓では、組織中の肝幹/前駆細胞の活性化(胆管リモデリング)が誘導され、再生を担う。本研究では、p53遺伝子強制発現による肝障害・再生モデルを中心に、胆管上皮組織構造のリモデリング ならびに 胆管上皮組織を構成する細胞(LPC/BEC)からの肝細胞分化の制御機構を明らかにすることを目的としている。平成30年度には、主に以下のような成果を得た: ・p53遺伝子を強制発現したマウス肝臓 および コントロール肝臓をもちいて網羅的遺伝子発現解析(RNA-Seq解析)を行った。これにより得られた結果と、LPC/BECからの肝細胞分化が誘導されない肝障害モデルでの遺伝子発現プロファイルとの比較解析により、LPC/BECからの肝細胞分化の誘導に関わる複数の候補シグナル分子(遺伝子)を抽出できた。これらの候補因子について、さらに詳細な機能解析を進めている。 ・胆管リモデリングの誘導に関わる新たな分子として、胆管上皮組織に発現する転写因子Klf5を同定し、その機能を明らかにした。Klf5欠損マウスでは、胆汁うっ滞性肝障害時の胆管リモデリングが顕著に抑制されており、障害が増悪した。一方、胆汁うっ滞を伴わない薬剤性肝線維化誘導モデルにおける胆管リモデリングには、Klf5は必須ではなかった。本研究により、胆管リモデリングの構造的・機能的多様性が分子レベルのメカニズムの違いにより規定されることが初めて明らかとなり、これについて国際誌において報告を行った。 ・種々の肝障害モデルでの組織学的な解析から、胆管リモデリングの誘導が、肝細胞障害に伴う毛細胆管構造の崩壊と密接に相関することを見出した。両者の因果関係を示すことで、胆管リモデリングの生理機能として「肝障害により失われた毛細胆管構造を補完することで、胆汁流路を確保し、肝再生を促進する」とのモデルを提唱するに至り、現在、国際誌に投稿中である。
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