公募研究
脂肪肝では、肝臓の再生能が障害されており、肝切除後の合併症や脂肪肝炎の病因になっている。肝再生過程における細胞死の亢進は、脂肪肝再生障害の主因であり、軽度脂肪肝ではアポトーシスによる孤発性肝細胞死が、高度脂肪肝では広汎肝細胞死が増加する。特に、広汎肝細胞死は、肝障害の生命予後と密接に関連することから、その機序の解明が求められている。研究代表者は、本領域公募研究(H27~28年度)の支援をうけ、脂肪肝再生過程での細胞死誘導メカニズムの解明を行った。その過程において、多様な細胞内ストレスに共通した細胞応答である統合的ストレス応答、すなわちeIF2αリン酸化が、脂肪肝再生過程での肝細胞死の誘導に重要であり、肝再生過程での細胞死の様式を調節することを見出している(Hepatology 2015)。脂肪肝再生過程において、統合的ストレス応答が軽度であれば、孤発性肝細胞死が、高度であれば、孤発性肝細胞死と広汎肝細胞死が誘導される。統合的ストレス応答の関連分子であるCHOPの欠失では、孤発性肝細胞死・広汎肝細胞死の両者が消失し、一方で、ネクロプトーシス制御因子であるRIP3の欠失では広汎肝細胞死のみが消失する。そこで、本研究課題では、これらの知見をもとに、高度脂肪肝の障害後再生過程で発生する広汎肝細胞死の発症メカニズムの解明を行う。本年度の検討から、高度脂肪肝の障害後肝再生過程における広汎肝細胞死が、アポトーシスとは異なるメカニズムによって誘導される可能性を見出した。さらに、統合的ストレス応答の関連分子であるATF3の欠損により、高度脂肪肝の障害後肝再生過程における広汎肝細胞死が消失することを見出している。これらの知見はATF3が肝再生過程での非アポトーシス性細胞死誘導に寄与する可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
脂肪肝再生過程の広汎肝細胞死の発症メカニズムを、免疫組織学的手法により検討し、このような広汎細胞死がアポトーシス増強により二次的に誘導されるのではなく、増強した統合的ストレス応答により直接誘導される可能性を見出している。さらに、統合的ストレス応答の関連分子であるATF3が、広汎細胞死の発症過程において、肝臓で発現が急増することを見出し、その欠損により肝再生過程での広汎細胞死が消失することを見出している。これらの結果から、当初の計画通りに進展していると言える。
今後は、広汎肝細胞死発症におけるATF3の役割の解明を行う。特に、高度脂肪肝における障害後肝再生過程におけるATF3の発現増加のメカニズムと、ATF3の細胞死誘導への関与とそのメカニズムを解明する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Nat Commun.
巻: 9 ページ: 30
10.1038/s41467-017-02537-6.
Diabetes.
巻: 66 ページ: 1008-1021
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http://inoue.w3.kanazawa-u.ac.jp/index.html