昨年度までの線虫をモデル動物とした研究から、神経軸索再生において、カスパーゼであるCED-3はABCトランスポーターであるCED-7のC端を切断することで、軸索切断依存的なPSの細胞外提示を誘導することが明らかになっていた。一方、カスパーゼが活性化すると細胞死を誘導することがよく知られているが、軸索切断によるカスパーゼの活性化が、なぜ細胞死を誘導することなく軸索再生を促進できるのか、そのシグナルを区別するメカニズムについては不明であった。そこで本年度は、それを明らかにするために、CED-3の上流で軸索再生を制御する因子について探索した。その結果、カスパーゼであるCED-3の他に、Apaf-1の線虫ホモログCED-4も、切断したD型運動神経の軸索再生に関わることを見出した。さらに、小胞体にあるカルシウム結合タンパク質カルレティキュリンの線虫ホモログCRT-1が、CED-3の上流で機能することも見出した。crt-1変異体では、ced-3変異体やced-7変異体同様、切断依存的なPSの細胞外提示が起こらなかった。さらに、crt-1変異体でみられる軸索再生率の低下は、C端を欠損させて活性化型にしたCED-7を切断神経で発現することにより抑圧できた。CRT-1はカルシウム動態には影響するが、細胞死を誘導する因子ではないことから、細胞死の経路とは異なる経路である小胞体カルシウム経路が、CED-3およびCED-4を活性化することで、細胞内でのカスパーゼの活性化を局所的なものに抑え、それによりCED-7のC端の切断を介したPSの軸索切断領域特異的な細胞外への提示が行われていることが示唆された。
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