組織が損傷すると、細胞死を契機に、組織の線維化がおこる。従来、線維化の微小環境においては「マクロファージによる炎症惹起物質の認識と死細胞の貪食」→「マクロファージからのTGF-bやPDGFなどの放出」→「筋線維芽細胞によるそれら放出物質の感知」→「筋線維芽細胞による線維化の実行」という順に、応答が起こると考えられてきた。申請者は、心筋梗塞時の死細胞除去機構を研究する過程で、これまで死細胞を貪食すると思われていなかった、筋線維芽細胞が死細胞を効率よく貪食することを見出した。この発見は、これまでマクロファージからの指令を受けて、線維化を実行する細胞としてのみ捉えられていた筋線維芽細胞が、実はマクロファージのみが行うと考えられてきた機能をも担うことを示す。 そこで本年度は、筋線維芽細胞による死細胞の貪食現象が、急性炎症時(心筋梗塞時)の心臓のみならず、慢性炎症時(高血圧性の心肥大時)の心臓に出現する筋線維芽細胞においても認められるかを検討した。その結果、高血圧性の心肥大モデルマウス心臓から単離した筋線維芽細胞が、死細胞の貪食能を持つことを見出した。そしてその貪食能は、マクロファージのそれよりは劣るものの、心筋梗塞時の筋線維芽細胞の場合と同程度であることも見出した。さらに、この心肥大モデルマウス心臓から単離した筋線維芽細胞が産生する貪食促進分子を同定した。すなわち、その分子を欠損すると心肥大時の心臓において未処理の死細胞が増加し、その結果、心臓の機能が増悪することを見出した。
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