研究実績の概要 |
脳梗塞後の大量の脳細胞死に伴うダイイングコードとして、虚血壊死に陥った脳組織で炎症を惹起する内因性組織因子(DAMPs: danger associated molecular patterns)が知られている。特に、脳梗塞後の炎症に寄与するDAMPsは、High mobility group box 1(HMGB1)、ペルオキシレドキシン(PRX)、S100A8/A9などのタンパク質である。これらのDAMPsが炎症組織から排除されることは、炎症の収束に重要であると考えられる。実際にDAMPsの排除は、脳梗塞内に浸潤したMSR1を高発現するマクロファージが担う。しかし、このような炎症収束のための分子メカニズムはまだ未解明の部分が多い。 脳梗塞後の脳組織においてMSR1を高発現するマクロファージを誘導するメカニズムを探索したところ、マクロファージの分化にも重要な役割を持つ転写因子Mafbが、MSR1の高発現を誘導することが判明した。マクロファージ特異的にMafbを欠損したマウスでは、脳梗塞後のMSR1を高発現するマクロファージが観察されず、脳梗塞の病態が悪化した。一方で、Mafbを発現誘導する低分子化合物としてビタミンAの誘導体が知られており、レチノイン酸の核内受容体(RAR: retinoic acid receptor)はRXR(retinoid X receptor)とヘテロダイマーを形成することによってMafbを発現誘導する。脳梗塞モデルマウスにビタミンA誘導体の1つであるタミバロテン(AM80)を投与すると、脳内に浸潤したマクロファージのMafbの発現が上昇した。その結果として脳梗塞内のMSR1を高発現するマクロファージが増加し、炎症の収束を早めることができた(Shichita, et al. Nature Medicine 2017)。
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