研究実績の概要 |
梗塞に陥った脳組織では大量の脳細胞死が生じ、これに伴うダイイングコードとして、炎症を惹起する内因性組織因子(DAMPs: danger associated molecular patterns)が虚血壊死した脳組織から放出される。本研究では脳梗塞後の細胞死に伴う炎症が、どのように収束し、神経修復を開始するのかを解明することを目標として研究を実施した。 脳梗塞後のDAMPsが組織から排除されるメカニズムを、培養細胞系を用いた分子スクリーニングによって探索した結果、DAMPsが脳内に浸潤したマクロファージの発現するスカベンジャー受容体(MSR1やMARCO)によって細胞内に取り込まれ、排除されることが明らかになった。脳梗塞後に誘導されるMSR1を高発現するマクロファージは神経修復因子IGF-1を産生する明確な修復細胞であった。ビタミンA誘導体AM80の投与によって、DAMPsの排除を促進し、炎症の収束を早めることを発見した(Shichita, et al. Nature Medicine 2017)。 以上の研究成果は、無菌的炎症の収束を早める治療法が可能であることを実証している。無菌的炎症は、様々な臓器障害の病態に絡んでおり、従来の炎症抑制薬では治療効果を上げられないことも注目されていることから、炎症の収束を早める薬剤の開発によって様々な病態に有効な治療剤が開発されることが期待される。実際に、炎症は修復機転を誘導する要因の1つであることが予想される。脳内における修復細胞の解析からは、これらを誘導するために修復性の脳内環境が形成されることが明らかになりつつある。
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