研究領域 | 細胞死を起点とする生体制御ネットワークの解明 |
研究課題/領域番号 |
17H05516
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
上岡 裕治 関西医科大学, 医学部, 講師 (50511424)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 好中球細胞死 / イメージング / NETosis |
研究実績の概要 |
好中球では、自身のクロマチンから成る高粘着性構造体「好中球細胞外トラップ:NETs」の放出を伴う細胞死「NETosis」が知られている。NETosisの本来の機能は外来異物の効率的な「捕捉」であるが、自己免疫疾患、癌転移、手術後の急性障害などにもNETosisが関与する。本研究では、二光子励起顕微鏡を用いた生体イメージングを駆使することでNETosisを制御する分子メカニズムに関して、以下の3つの課題に取り組んでいる。 1. ApoptosisとNETosisの選択に関わる細胞接着シグナル:当該年度においては、細胞接着の制御因子Rap1からIntegrinへのシグナル伝達経路がNETosis制御にどのように関わるかをin vivoで調べる予定であった。Integrinの活性調節因子であるKindlin-3遺伝子をLysM-Cre下において好中球特異的に欠損する遺伝子組換えマウスの作出に予定より遅れて成功した。現在、その他の遺伝子組換えマウス作出も進行中である。 2. NETosisに関わるMAP kinase(ERK, JNK, p38)の役割:p38バイオセンサーを入手し、バイオセンサーマウスの作出の準備を進めている。肝臓での生体イメージングによって、LPS刺激で誘導されるNET様のDNA放出プロセスを観察できた。 3. NETsに伴う細胞骨格の変形、DNAの放出メカニズム:In vitro でNETosisを観察する系を立ち上げ、各種刺激に対するNETosisの定量化に取り組んだ。先行論文では、P-selectinと好中球との細胞接着がNET 形成に重要であることが報告されているので、血流環境を再現するflow chamber内でP-selectinと好中球の相互作用を確認する系を立ち上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
二光子励起顕微鏡を用いたマウス生体肺イメージング系を立ち上げ、NET観察を試みた。一般的な死細胞DNA染色試薬DAPI(青色)、PI(赤色)では十分な輝度の画像が得られなかったが、Sytox Green染色(緑色)により輝度の問題はほぼ解決した。しかし、Sytox GreenではFRETバイオセンサーマウスを用いたイメージングにおける色の分離が次年度以降の課題である。さらに生体内自家蛍光との分離も課題である。特に肺では自家蛍光が強かったため、今後は肝臓のイメージングを中心に行う予定である。肝臓の生体イメージングによって、LPS刺激で誘導されるNET様のDNA放出プロセスを観察できたが、好中球自体の可視化ができていないため、NET(死細胞DNA)と好中球の共染色を行う。また、生体内でのNETは短時間で形成・消滅する(血流、生体内DNAaseによる分解が原因と推測している)ため、Sytox Greenの静脈注射のタイミングが観察結果に影響を与えることがわかった。 LysM-Cre下でRap1を欠損させる遺伝子組換えマウスの作出に当初取りかかったが、1)LysM-CreとRap1bが同じ染色体に載っていること、2)好中球ではRap1aよりもRap1bの発現量が多いことなどの理由でLysM-Cre, Rap1b f/fマウス作出を断念した。代わりにIntegrinの活性調節因子であるKindlin-3の好中球特異的欠損マウスなどの作出にとりかかった。またCAG-Cre下でRap1bを欠損させる遺伝子組換えマウスを作出し、骨髄移植によって好中球特異的にRap1bを欠損させる予定で交配を進めているが、産子の生育不良や産子数の少なさのためにマウス作出計画はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
CFPマウス由来好中球を用いることで、肝臓の生体イメージングで見られたNET様DNA放出が好中球由来であることを確認する。DNA染色試薬Sytox Green(緑色)の蛍光がFRET画像に混じる課題をsubtraction等の画像処理で解決したいが、別途赤色DNA染色試薬の利用も検討する。FRETマウスを用いたイメージングを当初予定していたが、Sytox Greenの蛍光がFRET観察に影響する課題が解決するまで、CFPマウスもしくは今春から導入予定の赤色蛍光マウスを用いた実験(薬剤を用いた実験と細胞接着関連因子の欠損マウスを用いた実験)を行う予定である。 NET誘導のための刺激(LPSなど)のタイミングなどはin vitroの観察系で確認できているので、NET、アクチン細胞骨格、細胞接着制御因子等の同時染色を行い、NETsに伴う細胞骨格の変形、DNAの放出メカニズムをin vitroでの解析を中心に進める。先行論文では、P-selectinと好中球との細胞接着がNET 形成に重要であることが報告されている。前年度までに、血流環境(流れ刺激)を再現するflow chamber内でP-selectinと好中球の相互作用(ローリング、アレスト)を確認する系を立ち上げた。このflow chamberを用いた実験系を蛍光観察できるようにセットアップし、in vitroで流れ刺激下でのNET形成プロセスを観察できるようにする。
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