公募研究
我々は、活性酸素(ROS)がストレス応答キナーゼASK1を介して、細胞死や免疫応答も活性化することを見出した。おそらく感染の程度に応じて、ASK1活性化が厳密に制御され、細胞死や免疫賦活化などの異なる応答が誘導されると考えられるが、その仕組みは不明である。最近我々は、ASK1活性化の持続時間・強度が、幾つかのユビキチン化関連酵素群によって厳密に制御されること、また他のキナーゼも含めて、多様な翻訳後修飾によるROSシグナルの新たな制御機構を明らかにした。本研究では、多様なユビキチン化等の翻訳後修飾が、ROSの強度に応じてASK1などのキナーゼ活性化のバランス制御を介して、ストレスに応じた、異なるストレス応答を適切に誘導できる仕組みを分子レベルで解明し、それら制御分子を標的とした免疫疾患や癌の新たな治療戦略開発につなげることを目的とする。本年度は、ストレスの強度に応じたROSの産生を介して、そのストレスにとって適切な応答が誘導される仕組みについて、Roquin-2やTRIM48等のユビキチン化・メチル化酵素などの活性制御分子による、ROSの強度に応じたASK1やTAK1等のストレス応答キナーゼの活性化のバランス制御の分子機構の解明を基に明らかにすることを試みた。その結果、特にUSP9XやRoquin-2に次ぐ、さらにもう一つのASK1活性制御に関わるユビキチン化酵素TRIM48が、ASK1のメチル化酵素であるPRMT1のUb化分解を介して、ROS依存的なASK1活性化を促進し、細胞死を誘導して癌を抑制する働きがあることを明らかにした。実際にPRMT1は、ASK1をメチル化することで、ASK1とその阻害分子として働くレドックス応答性分子チオレドキシンとの結合を強化し、ASK1を不活性化する分子であり、ASK1のROS依存的な活性化のバランス制御を行う重要な分子であった。
2: おおむね順調に進展している
まず、メチル化酵素PRMT1によるASK1のメチル化が、ASK1阻害分子として働くレドックス応答性分子チオレドキシンとの結合を促進し、ASK1を不活性化すること、また、ASK1活性制御に関わるユビキチン化酵素TRIM48が、ASK1のメチル化酵素であるPRMT1のUb化分解を介して、ROS依存的なASK1活性化を促進することについて、順調に明らかにすることができた点が挙げられる。実際、TRIM48はASK1活性化促進分子として、細胞死を誘導して癌抑制分子として働くことも判明した。本結果は、Cell誌の姉妹誌であるCell Reportsに掲載された。ユビキチン化酵素Roquin-2によるASK1の活性制御機構に加えて、免疫応答にとって重要なキナーゼであるTAK1のユビキチン化分解によって、TAK1の活性を制御し、炎症・免疫応答などのバランス制御を行っている可能性があること、また、TAK1自体もROSによって活性制御が行われていることを示唆するデータも得ている。さらに、新規同定したASK1活性制御分子DHX15について、DHX15によるASK1活性制御機構や、動物病態モデルDHX15が炎症性の病態疾患を関わることなど、生理機能についても示唆するデータを得ることができた。
次年度は、ユビキチン化酵素Roquin-2を介した、免疫シグナルにおけるROSによるTAK1活性制御機構の解析を続け、TAK1がRoquin-2のUb化標的分子であると同時に、TAK1自身が分子内システイン残基を介してROSを直接感知する可能性についても検討を行う。また、TAK1によるRoquin-2のリン酸化など、TAK1とRoquin-2との相互作用についての解析を加える。さらに、下流のNF-κB経路等へのシグナル伝達機構や実際のTAK1活性化の免疫シグナルなどへの影響・意義についても明らかにする。ASK1活性制御分子としてのDHX15については、免疫疾患や癌の治療標的としての妥当性を明らかにするため、樹立済みのDHX15コンディショナル欠損マウスや欠損細胞などを用いて、炎症・免疫疾患や癌の動物モデルでその治療効果を評価する。また、我々が以前見出した、インフラマソーム構成因子であるASCのJNKによるリン酸化以外に、新規翻訳後修飾GSH化についても解析を進めており、その制御機構、インフラマソーム形成に及ぼす影響、ROS依存的な免疫応答での役割を明らかにし、可能であれば、その酵素の同定にも着手したい。以上の解析により、インフラマソーム構成因子や上記のASK1やTAK1も含めて、ROSを介した多様な翻訳後修飾によるシグナルのバランス制御機構が適切なストレス応答の誘導にとって普遍的に重要なシステムであることを検証したい。
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http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~eisei/eisei.HP/index.html