研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
17H05525
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤田 祐一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80222264)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | シアノバクテリア / 窒素固定 / 酸素パラドクス / ニトロゲナーゼ / トランスポゾンタギング |
研究実績の概要 |
Leptolyngbya boryanaは、一様な細胞からなる糸状性シアノバクテリアであり、嫌気環境下で窒素固定的に生育することができる。窒素固定を触媒するニトロゲナーゼは、酸素に極めて脆弱な酵素であるため、L. boryanaなどのシアノバクテリアがどのように酸素を発生する光合成と窒素固定の両立という酸素パラドクスを統御しているのか十分理解されていない。特定の遺伝子の欠損株を単離する系が確立されているL. boryanaは、酸素パラドクスを統御する分子機構を明らかにする上で格好のモデル生物であるが、これまでにランダムな遺伝子破壊による順遺伝学的な手法が確立されていなかった。そこで、最近別のシアノバクテリアにおいてランダムな遺伝子導入で実績が示されたトランスポゾンベクターpKUT-Tn5-Sm/SpをL. boryanaに活用することを試みた。接合によりこのプラスミドをL. boryana細胞に導入し、ストレプトマイシン耐性(SmR)カートリッジのゲノムへの挿入を促した。その結果、選択培地上でSmRを示すL. boryana形質転換体のコロニーを多数得、これまでに約1800個の形質転換体をスクリーニングし、窒素固定的生育に異常を来す変異株を3株単離した。このうちCT889は、窒素固定的生育が完全に失われ、ニトロゲナーゼ活性も野生型の3%まで減少していた。CT1590は、窒素固定的生育が有意に遅くなっていたが、ニトロゲナーゼ活性はほぼ野生型と同程度認められた。さらに、CT1799は窒素固定的生育が促進されており、ニトロゲナーゼ活性も20%程度上昇していた。これらの変異株のゲノムリシーケンスを行い、SmRカートリッジの挿入位置から形質の原因遺伝子をほぼ特定することができた。今後は、さらにスクリーニング総数を増やして、さらに変異株の単離を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Leptolyngbya boryanaを用いたトランスポゾンタギングの系がほぼ確立することができ、興味深い形質を示す変異株が実際に単離できたことから、さらに変異株スクリーニングを進めることで、酸素パラドクスの統御に異常を来す変異株をさらに取得することが期待できる。また、これら変異株のゲノムリシーケンスによりトランスポゾンの挿入位置を特定することができることを確認している。この系を駆使することで、酸素パラドクスの統御に関わる遺伝子を多数特定することが大いに期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
すでに単離した変異株における原因遺伝子の確認を進めると共に、新しい変異株単離を進める。また、nif遺伝子クラスターに見つかった遺伝子orf89についてもその生化学的役割について検討を進めるために、大量発現用のプラスミドを構築する。NifHタンパク質の電気泳動上の移動度の変化を分子実体を明らかにするために、L. boryanaでのNifH大量発現株を構築し、異なる条件でNifHタンパク質の精製を進め、その修飾の分子実態に迫りたい。
|