研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
17H05529
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森井 孝 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (90222348)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 一酸化窒素 / バイオセンサー / 蛍光センサー |
研究実績の概要 |
酸化活性種による翻訳後修飾過程を可視化する蛍光バイオセンサーを構築する。特に、タンパク質チオール基の翻訳後修飾に関与している主たる酸化活性種であるNOに注目して蛍光NOバイオセンサー(NOセンサー)を構築する。これまでに、NOにより翻訳後修飾を受けることが知られているTRPC5(Nat. Chem. Biol., 2006)の構造変化メカニズムに着目し、NOにより構造変化を誘起される部分構造をNO反応モジュールとして採用し、申請者らがこれまでに培ったバイオセンサー構築戦略(Bioorg. Med. Chem. 2009など)を応用したNOセンサーを設計し、評価をおこなってきた。 分割型GFPを用いたNOセンサーでは、試験管内においてNOの存在により、有意な蛍光変化を観測することができている。しかしながら、そのS/N比は充分なものではなく、細胞内においてNOを検出するためには、より大きなダイナミックレンジでNOを検出することができるNOセンサーであることが望まれる。それと同時に、例えば過酸化水素など他の酸化活性種との選択性も重要になってくる。 本研究では、現在有用な結果が得られている分割型NOセンサーを、より大きなダイナミックレンジでNOを検出できるよう分割型GFP に導入するリンカーを含んだNO反応モジュールの最適化をおこなう。さらに、他の酸化活性種との選択性も評価し、高選択的にNOを検出可能なNOセンサー構造の最適化をおこなう。これまでと同様に、試験管内にて最適化をおこなったうえで、細胞内での機能評価をおこなう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TRPチャネルのひとつであるTRPC5の構造変化メカニズムに着目し、そのS-ニトロシル化部位として同定されたCys553を含む部分構造をNO反応部位として用い、その周辺配列を構造変化モジュールとして分割型GFP(spGFP)および円順列変異型GFP(cpGFP)の発色団付近に融合させた2種類のNOセンサーを構築した。実際にNO存在下において有意な蛍光変化が確認されたが、細胞内でより高精度にNOを検出するために、更なる機能向上を目指し、NO反応部位の改良をおこなった。 ① NO反応部位である2つのシステイン残基が、NO応答後にジスルフィド結合を形成することによるNO反応部位の構造変化を分子モデリングにより解析した。構造変化モジュールのアミノ酸配列をN末端もしくはC末端から欠損させ、ジスルフィド結合形成前後の構造を最適化した。それらの中から、ジスルフィド結合形成により発色団近辺に大きな構造変化が見られた変異体を選出した。 ②構造変化モジュールのNO反応部位である2箇所のCysが想定したようにジスルフィド架橋構造を形成し、構造変化を誘起することを確認するために、反応前後にDTNB法を用いてチオール基を定量した。精製直後のNOセンサーではチオール基が検出されなかったが、TCEPにより還元したNOセンサーでは約60%がチオール基として検出された。 ③上記①で、モデリングの結果、構造最適化されたNOセンサー変異体を発現した大腸菌破砕液を用いて、NO存在下での蛍光挙動を評価する条件を最適化した。生体内でセンサーを使用する場合、他の細胞内物質による影響を検討することが重要であるため、大腸菌破砕液での蛍光挙動は細胞内でのセンサー性能評価の良い指標となる。
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今後の研究の推進方策 |
構造変化モジュールを予測する。その中で、大きな構造変化を得られると予測された構造変化モジュールを実際に蛍光タンパク質に導入し、NOの存在下・非存在下における蛍光強度の経時変化を追跡する。 TRPV1, TRPV3やTRPV4)もspGFPまたはcpGFPに挿入する。これらのセンサーは、項目2.の評価も併せて最適化をおこなっていく。 これまでにNOドナーからのNO産生評価に成功しているHEK細胞(Nat. Chem. Biol. 2006)を使用し、最適化したNOセンサーを哺乳類細胞で発現させる。HEK細胞内に、センサーの遺伝子を組み込んだベクターを導入し、細胞内でNOセンサーが安定に発現・機能するかをNOドナーによる細胞内NO濃度の上昇とGFP蛍光の相関関係により評価する。
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