血管平滑筋において、カルシウムイオンは筋収縮や細胞増殖など多様な生体応答を引き起こす。また、エネルギー産生の場であるミトコンドリアの機能においても、カルシウムイオンは重要な役割を担う。近年、小胞体とミトコンドリアが非常に近接している構造が平滑筋細胞において報告されている。本研究では、小胞体とミトコンドリアを連結する分子として知られているミトフュージンに着目し、その生理的意義を解明することを目指した。ラット大動脈から単離した平滑筋細胞を培養し、ミトフュージン2をノックダウンした結果、小胞体-ミトコンドリアの共局在率が減少した。また、ミトフュージン2ノックダウンにより小胞体-細胞質-ミトコンドリア間のカルシウムシグナルが抑制されたことから、ミトフュージン2が小胞体-細胞質-ミトコンドリア間のカルシウムシグナルを効率化する役割を担うことが示唆された。ミトフュージン2ノックダウンによりミトコンドリア膜電位の消失も認められた。さらに、ミトコンドリア内ATP量の減少も見られたことから、ミトフュージン2は血管平滑筋細胞において、ミトコンドリアATP産生に寄与していることが示唆された。次に、多くの循環器疾患で病態形成に関与する細胞増殖に着目した。ミトフュージン2ノックダウンにより血管平滑筋細胞の細胞増殖が抑制されたことから、ミトフュージン2は細胞増殖を亢進することが示唆された。以上より、ミトフュージン2が小胞体-ミトコンドリア間の距離を制御し、ミトコンドリアのカルシウム取り込みを効率化することや、ミトコンドリア機能であるATP産生を促進し、結果として細胞増殖を亢進することが示唆された。血管平滑筋において、ミトフュージン2が支える小胞体-ミトコンドリアカルシウムマイクロドメインは、ミトコンドリア機能および細胞機能の制御に重要であると考えられる。
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