研究領域 | 酸素を基軸とする生命の新たな統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
17H05539
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
三尾 和弘 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, ラボチーム長 (40470041)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | TRPチャネル / 1分子運動解析 / X線回折 |
研究実績の概要 |
レドックス感受性を持つTRPV1の作動機構解明を目的に、Spring-8白色X線を用いたX線1分子追跡法(DXT: Diffracted X-ray Tracking)と、リガクFR-Dを用いた新規に開発した単色X線輝点明滅法(Lab-DXB)を用いて1分子動態解明を試みた。DXTではタンパク質を金ナノ結晶で標識し、回折スポットの運動を3次元(傾斜、回転、時間)リアルタイム分析を行った。応答性を確認するためにカプサイシンおよび熱刺激に対する運動解析を行った。回転軸ブラウン運動は、カプサイシン用量依存的に増強され、回転方向については異方性回転運動として検出された。熱刺激に関しては、野生型(WT)と熱応答性を欠損したトリプルミュータント(TRI: N629K/N653T/Y654T)の運動比較の結果、WTの回転値はTRIと比較して有意に高いことが確認できた。さらに50℃、t=2.0msecにおける回転は、WTはマイナス(-)側に、TRIはプラス(+)側に確率分布の偏りが確認できた。カプサイシン刺激では、プラス(+)への偏りが観測されており、分子応答の観点からはカプサイシンと温度刺激では異なる挙動が示された。実験室装置での分子運動解析を目的に、ピクセル輝度の自己相関係数から分子揺らぎを導出する、単色X線輝点明滅法(Lab-DXB: 輝点明滅法)を開発した。現在100ms程度のデータ取得まで可能で、細胞表面分子の計測も可能なため、新しい創薬スクリーニング装置としても期待できる。Lab-DXBを用いて、一過性発現させたTRPV1のカプサイシン応答データの取得にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Spring-8の白色X線を用いたX線1分子追跡法のみならず、実験室内でのタンパク質分子運動解析技術として単色X線輝点明滅法(Lab-DXB)を新規に開発することに成功し、汎用化の道を開くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究においてリガンド刺激によるTRPV1の分子運動が解析出来る目処が立ったので、本技術を用いてTRPチャネルのレドックス反応機構を解明する。特に高酸素添加時の分子運動解析の実施、低酸素実験系の構築と酸素分圧による活性化機構の違い、変異体やリン酸化修飾による活性化機構の詳細解明、「ナノディスク」技術を活用した脂質環境下でのレドックス活性化機構の解析、に重点を置いた解析を進める。また高酸素分圧下で作成した試料を解析することにより、酸素による活性化機構を探る。クライオ電子顕微鏡による高分解能構造が報告されている分子を中心に、酸化還元による構造変化を化学リガンドによる活性化構造と比較することで、酸素活性化の特徴を明らかにする。
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