研究領域 | 行動適応を担う脳神経回路の機能シフト機構 |
研究課題/領域番号 |
17H05544
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小金澤 雅之 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (10302085)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 求愛行動 / セロトニン / 社会経験 |
研究実績の概要 |
1. 社会経験の基盤となるセロトニンニューロンの同定とその機能解析 経験依存的求愛行動は複数種のfru突然変異体で観察できる。一方で、本研究課題の手掛かりとなった、fru変異とtrh変異の二重変異体における経験依存的求愛行動の抑制は、fru[satori]変異体を用いた時に観察されたものであった。そこで他のfru変異体で誘導できる経験依存的求愛行動も、trhとの二重突然変異により同様に抑制されるか否かを確かめるために、他のfru変異体を用いた実験を行った。その結果、fru[NP21]変異とtrh変異の二重突然変異体では経験依存的求愛行動の抑制を観察することができた。一方、fru[FLP]変異体では有意な抑制が観察出来なかった。fru[FLP]変異体は経験依存的求愛行動のレベルが非常に高く、trh変異の導入による抑制が観察されにくい可能性も考えられる。しかしながらこの結果は、fru変異体が示す経験依存的求愛行動の実現にはセロトニン系だけが重要なのではない事も示唆する興味深いものである。
2. 経験により適応的に変化するセロトニンのターゲットとなる神経回路の機能同定 セロトニンニューロンのターゲットとして、社会行動解発の司令システムであるfru発現P1ニューロン・dsx発現pC1ニューロンに注目している。これらのニューロン群はjanelia farmが作出したR71D01と名付けられたLexAドライバー系統を用いる事によって標識可能である。そこで、R71D01-LexAとtrh-GAL4を用いることにより、P1/pC1ニューロン群とセロトニンニューロン群との接続をGRASP法により検証した。その結果、P1/pC1ニューロンが密な神経突起を展開しているLPC領域に微弱ながらGRASPシグナルを検出する事ができ、両ニューロン群間での直接的な接続の存在が示唆できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、生得的行動と考えられている求愛行動が経験依存的に変化することに注目し、新たに見出したセロトニンの効果が神経回路のどのレベルでの機能的適応に基づくものであるのかを明らかとすることを目的としている。経験依存的求愛行動はfru遺伝子に関するホモ変異体・トランスへテロ変異体で広く観察される。一方、セロトニンシステムの破綻による経験依存的求愛行動の抑制はfru[satori]変異体バックグランドで見出された効果であった。今年度は他の2種のfru変異体を用いた検証を行い、trh変異との二重突然変異により、fru[NP21]変異体を用いた場合ではfru[satori]と同様の抑制効果が観察されたが、fru[FLP]変異体では有意な抑制が観察出来ないことが明らかとなった。このことは、経験依存的求愛行動の実現にセロトニン以外のシステムが機能している事を示唆しており、本研究で対象とする「経験を刻印する」神経基盤の範囲を当初より広く探索する必要性が生じた。そのため、次年度はドーパミンやオクトパミンなど他のアミンの効果も検討する。また、本研究では社会経験に依存したニューロン応答の変化を捉えることも目指している。本年度はニューロン応答の検討のためのCa2イメージング実験系を確立したが、セロトニンニューロンの社会経験時の応答解析までは至らなかった。セロトニン以外のシステムの関与も示唆されたことから、他のアミンシステムの検証に踏み込まねばならず、研究計画全体を通してはやや遅れてしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 社会経験の基盤となるアミン性ニューロンの同定とその機能解析 fru変異とtrh変異の二重変異体で観察される経験依存的求愛行動の抑制は、社会経験にセロトニンが重要な役割を果たしている事を示唆するが、この抑制効果はセロトニン欠乏にのみ特異的に現れるものであるのか、それとも他のアミン(ドーパミンやオクトパミン)の欠乏でも同様の現象が生じうるのかを検討するため、セロトニン系の時と同様、fru変異体とアミン合成系の変異の二重変異体での経験依存的求愛行動を解析する。またトラックボール上で自由行動する個体からの脳内Ca2+イメージング技術を拡張して、他個体との相互作用時のセロトニンニューロン・ドーパミンニューロン等の応答解析を行う。
2. 経験により適応的に変化するセロトニンのターゲットとなる神経回路の機能同定 昨年までに、社会行動解発の司令システムであるfru発現P1ニューロン・dsx発現pC1ニューロンが5-HTニューロン群とシナプス接続をしている可能性を、GRASP法を用いて検討した。もしこれらのニューロン群が5-HTニューロン群からの直接支配を受けているならば、セロトニン受容体が発現しているはずである。ショウジョウバエで知られている5-HT受容体に関して網羅的なintersection解析を行い、どのタイプの受容体が司令システムに発現しているか同定する。また、司令システム特異的な5-HT受容体遺伝子のノックダウン実験を試みる。
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