研究実績の概要 |
本研究グループは、マウスにおいて異性や天敵などに由来する異なる化学シグナルがどのように受容され情動や行動の適切な変化が引き起こされるのかを、末梢の受容器官と扁桃体・視床下部の神経回路のレベルで明らかにすることを目指した。この目的のために、ウイルス遺伝子工学を用いた脳中枢神経回路の可視化や操作のための技術を導入した。該当年度には、マウス雄フェロモンESP1の作用神経回路の解析を完了した。本研究では、雄マウスの涙液に分泌されるタンパク質性の雄フェロモンESP1によって雌マウスの性受容行動ロードシスが促進されるという性フェロモン活性 (Haga et al., Nature, 2010) の神経作用機構を明らかにした。具体的には、順行性ウイルストレーシングによってESP1受容体の下流に位置する神経核を網羅的に可視化し、それらについて薬理遺伝学な介入実験を行うことでESP1が機能するための神経回路を機能的に同定した。次に、逆行性トランスシナプス標識法や新規に開発した軸索マッピング法によって、同定した領域間の解剖学的な接続様式を明らかにした。さらに、遺伝学的なTRAP法と光遺伝学とを組み合わせて、視床下部のESP1反応ニューロンが雌マウスの性行動を促進する機能を有することを新たに発見した。これはフェロモンの入力が行動出力へと変換される仕組みを神経回路のレベルで初めて解き明かした成果で、国際主要誌Neuronにおいて3名の査読者全員から強い支持を受けて掲載された。(成果:Ishii et al., Neuron, 2017)
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