昨年度までの研究により、小脳片葉領域のβアドレナリン受容体の活性化が運動学習のモデルとされている視機性眼球運動の適応現象に関与することを示すと共に、視機性眼球運動の適応を引き起こす訓練を行ったマウスから小脳片葉領域の切片を切りだして、平行線維・プルキンエ細胞間の興奮性シナプス伝達を調べることにより、運動学習を引き起こす訓練によりシナプス後部の伝達物質グルタミン酸に対する応答性が減弱し、またシナプス可塑性の一つである長期抑圧が引き起こせなくなることがわかった。後者の結果は、視機性眼球運動の適応時に長期抑圧が起こっていることを示している。これらの結果から、視機性眼球運動の適応に、βアドレナリン受容体の活性化と長期抑圧が関与することがわかった。そこで、2018年度はβアドレナリン受容体の活性化と長期抑圧の関係を調べた。そして、βアドレナリン受容体の活性化剤が、小脳片葉領域での長期抑圧を引き起こしやくするという結果を得た。具体的には、通常では長期抑圧を引き起こせない弱い条件刺激が、βアドレナリン受容体の活性化剤存在下では長期抑圧を引き起こした。なお、βアドレナリン受容体の活性化剤の投与だけでは、平行線維・プルキンエ細胞間の興奮性シナプス伝達は変化しなかった。また、脳内でβアドレナリン受容体の活性化を引き起こすノルエピネフリンも長期抑圧の発現を促進した。これらの結果から、ノルエピネフリンがβアドレナリン受容体を活性化することを介して、小脳片葉領域の長期抑圧を起こりやすくすることにより、視機性眼球運動の適応という運動学習を促進したと推測される。
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