研究実績の概要 |
本研究では、中枢随意運動回路の可塑性を制御する機構を明らかにすることを目的とする。我々はこれまでの研究で、中枢神経損傷後に、運動機能を制御する皮質脊髄路が、損傷を免れた軸索から頚髄のレベルで側枝を形成し、interneuronsに新たな回路を形成することを明らかにした。さらに運動神経回路の再編成現象を明確に評価するin vivoのシステムを確立し、神経回路の可塑性制御に関わる分子を同定した。以上の研究から、皮質脊髄路がどのように末梢神経に至る経路を形成できるのかという疑問に一部答えることができた。そこで本研究では、脳障害後の神経回路修復モデルを用いて、随意運動神経回路の可塑性を制御するメカニズムの解明を行っている。皮質脊髄路の上位および下位を包括して、随意運動システムがどのように可塑的変化を遂げるかという課題に対して、統合的にアプローチする。またリハビリテーションが可塑性に与える影響及びその分子機構を明らかにする。具体的にはこれまでに構築したモデルにより、皮質脊髄路の軸索枝が頚髄で、対側に伸長し、目的の介在ニューロンとシナプスを形成し、その後に不要な軸索枝が刈り込みを受けるという3つの可塑性プロセスに分けて、各メカニズムを解析した。特に軸索枝の刈り込みに関わる分子として、neuropilin-1を同定することができた。neuropilin-1の発現を抑制すると、軸索枝の刈り込みが消失するとともに、運動機能の回復が遅延した(Cell Death Dis., 2019)。この実験結果は、軸索枝の刈り込みが運動機能の回復に寄与することを示すとともに、その分子メカニズムを明らかにするものである。In vivoにおいて随意運動回路を制御する分子機構を明らかにすることで、成体における神経回路再編成のメカニズムを解明するという到達目標を達成した。
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