研究代表者らが新規睡眠制御分子として同定したリン酸化酵素SIK3は、脳に広範囲に発現しており、睡眠覚醒以外の行動制御にも重要な働きをしていると考えられる。実際に、SIK3の変異を持つマウスは睡眠覚醒異常に加えて、養育・攻撃行動の減弱やうつ・不安行動の亢進など多面的な行動異常を示す。本研究では、SIK3変異マウスを用いて、睡眠・覚醒、うつ・不安、養育・攻撃行動を制御する神経回路の理解を深めることを目指しており、特に養育行動、本能行動、睡眠覚醒等に重要であることが示されている視索前野に焦点をあてている。 SIK3変異マウスを用いた本能行動の検討を行った。養育行動については、ケージ内に非血縁幼若マウスを導入して行動を評価した。性行動試験は、性ホルモン処理を行った異性の個体を暗期に被験マウスケージに導入し、CCDカメラからマウス行動を記録し、マウントやイントロミッションの回数および潜時を計測した。攻撃行動の評価として、1週間以上雄マウスを個飼いにした後、別の雄マウスを導入するレジデントーイントルーダーテストを行った。不安行動課題として、高架式十字迷路、明暗箱試験およびオープンフィールド試験を行った。SIK3リン酸化酵素変異による本能行動制御に関与する神経細胞集団の同定のために、内側視索前野を含め視床下部の複数領域を標的に、Vglut2陽性ニューロンや、Vgat陽性ニューロンのみにSIK3遺伝子発現を変化させた。具体的には、Vglut2-CreマウスおよびVgat-Creマウスを麻酔下に定位脳固定装置を用いて、Cre依存的に蛋白を発現するAAVベクターを視索前野、腹内側核、背内側核、外側野へ局所投与し、部位特異的細胞種特異的に野生型および変異型SIK3を発現させた。同定した回路についてはさらに検討を継続して、本能行動制御および雌雄差について明らかにする。
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