パーキンソン病は黒質のドパミン作動性ニューロンの脱落に起因する神経変性疾患で、重度な運動障害を示す。治療にはドパミンを補うように前駆体であるL-DOPAを投与することが有効であるが、長期間のL-DOPAの服用はジスキネジアと呼ばれる不随意運動を誘発してしまう。これまでの実験でマウスの線条体投射ニューロンを光遺伝学を用いて興奮誘導すると、パーキンソン病モデルマウスにおけるL-DOPA誘発性ジスキネジアと非常に類似した運動を誘発することを報告してきた。そこで、線条体投射ニューロンの興奮を誘導したときの神経活動を大脳基底核の出力核である黒質網様部から記録し、パーキンソン病モデルマウスにおけるL-DOPA誘発性ジスキネジアと比較した。一方で、L-DOPAでジスキネジアを誘発したパーキンソン病モデルマウスに対して、線条体投射ニューロンを光遺伝学を用いて抑制したときに、ジスキネジアがどのように変化するのかを観察した。 L-DOPA誘発性ジスキネジアを示すパーキンソン病モデルマウスにおいて、大脳皮質運動野を電気刺激したときに黒質網様部で一過性の「早い興奮-抑制-遅い興奮」という三相性の応答が認められた。線条体に光を照射して線条体投射ニューロンを興奮させたところ、黒質網様部では光刺激に対して一過性の「抑制-遅い興奮」という二相性の応答が認められた。この二相性の応答は、L-DOPA誘発性ジスキネジアを示すマウスの「抑制-遅い興奮」と非常に類似していた。また、L-DOPAでジスキネジアを誘発したパーキンソン病モデルマウスに対して、線条体投射ニューロンを抑制したところ、ジスキネジアが抑えられる傾向が認められた。これらの結果から、線条体投射ニューロンの神経活動は、L-DOPA誘発性ジスキネジアに重要な役割を果たしていることが示唆された。
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