研究領域 | ノンコーディングRNAネオタクソノミ |
研究課題/領域番号 |
17H05606
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
佐渡 敬 近畿大学, 農学部, 教授 (70321601)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘテロクロマチン / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
Xist RNAの機能に不可欠な作動エレメントを欠失した変異型Xist RNAを内在性遺伝子座から発現させたマウス胚では,この変異型Xist RNAがX染色体を覆いはするものの,そのX染色体を不活性化することはできない.ところが,このX染色体のヒストン修飾を免疫染色で調べると,正常な不活性X染色体同様のヘテロクロマチン様構造が構築されていることが示唆された.本課題ではこの変異型Xist RNAが招いた一見矛盾するこの状態を理解するために,変異型Xist RNAを発現する胚より樹立したES細胞とこれから分化誘導した細胞を用いて,変異Xist RNAに覆われるX染色体のクロマチン修飾の詳細をChIP-seqにより調べることを計画した.これまでに,変異Xist アレルのヘテロ接合体のメスのES細胞の樹立に成功した.このES細胞を分化誘導し,変異型Xist RNAの発現を促すと,これに覆われたX染色体上の遺伝子のサイレンシングは正常に起こらないものの,ヒストン修飾については正常に不活性化されたX染色体同様のパターンが観察され,胚での表現型が再現されることを確認した.しかし,メスのES細胞の培養過程でしばしば観察される一方のX染色の消失(XO)が,得られたES細胞でも観察され,ChIP-seqを行うには不適当と思われた.そこで,樹立したES細胞のそれぞれのX染色体に異なる薬剤耐性遺伝子を相同組換えにより導入し,薬剤選択と組み合わせることで2本のX染色体を安定に維持するメスES細胞の樹立を試みた.まだ,そのようなES細胞は樹立には至っていないものの,間もなく樹立できる見込みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初より懸念されてはいたが,樹立した変異型Xist RNAを発現するメスES細胞が 2本のX染色体のうち一方をしばしば欠失しXOとなってしまうことが問題となった.そこで,不活性X染色体上でも不活性化を免れるエスケープ遺伝子と呼ばれる一部の遺伝子のうち,Utx遺伝子に着目し,それぞれのX染色体についてこの遺伝子座にCRISPR/Cas9による効率の改善を図りつつ,相同組換えによってネオマイシン耐性遺伝子カセット(IRESneo)およびゼオシン耐性遺伝子カセット(IRESzeo)を導入することを計画した.その結果,IRESneoの挿入は首尾よく成功したが,IRESzeoについては,薬剤選択がうまく行われず,まだ相同組換え体は得られていない.そこで,IRESneoの挿入されたヘテロ接合体のES細胞を用いて,もう一方のX染色体のUtx以外のエスケープ遺伝子座にIRESzeoではなくzeoの強制発現カセットを挿入することを進めており,そのような株も間もなく単離できる見込みである.ChIP-seqに供することが可能なES細胞が得られていないので,当初予定していたヒストン修飾のChIP-seqによる解析には至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
変異型Xist RNAを発現するメスES細胞と野生型のメスES細胞において,2つの薬剤耐性遺伝子をそれぞれのX染色体のエスケープ遺伝子座に挿入し,2本のX染色体を安定に維持する細胞を樹立する.これらを分化誘導しXistの発現を促した細胞と未分化状態の細胞を用いて,RNA-FISHおよび免疫染色を行い,胚で観察された異常が再現されるか確認する.十分な数の細胞でこれが確認されたら,RNA-seqを行い,それぞれのX染色体上の遺伝子の発現をアレル特異的に調べる.また,ゲノム全体の遺伝子発現についても調べ,X染色体不活性化の異常との相関を調べる.一方で,同様の分化誘導前後の細胞を用いて,不活性X染色体に特徴的な複数のヒストン修飾についてChIP-seqを行い,これらのX染色体上での分布を変異Xistを発現する細胞と野生型の間で比較し,RNA-seqによって得られるX染色体連鎖遺伝子の発現との相関を明らかにする.
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