研究領域 | ノンコーディングRNAネオタクソノミ |
研究課題/領域番号 |
17H05607
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
藤原 俊伸 近畿大学, 薬学部, 教授 (80362804)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | mRNA-タンパク質複合体(mRNP) / mRNA分解 / 翻訳制御 / RNA結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
miRNAが行う遺伝子発現制御機構には、mRNAのpoly (A)鎖を分解することでmRNAを不安定化させ分解する経路と、翻訳開始複合体中のeIF4Aを標的とすることで直接的に翻訳を抑制する経路が存在する。poly (A)鎖の分解機構がその素過程まで解析されている一方、miRNAが誘導する翻訳抑制機構においてどのように標的mRNA上からeIF4Aを解離させているかについては未だ不明である。miRNAは、Agoタンパク質との複合体であるmiRISCを形成することで機能を持ち、このmiRISCと様々な因子が相互作用することで翻訳抑制が引き起こされるといわれている。しかしながら、様々なモデル生物および実験系を用いて得られた結果をもとにした仮説が次々と提唱され、議論が混沌としている。そこで私は、miRISCを形成したAgoタンパク質が直接翻訳抑制を引き起こしているのではないかと考え、miRNAによる翻訳抑制機構に対するGW182タンパク質の必要性を検証した。GW182タンパク質は、ヒトではTNRC6A、TNRC6B、TNRC6Cの3種類が存在し、miRISCや、様々な因子と結合し足場として働くと考えられており、miRNAが引き起こす翻訳抑制機構に必要であると考えられてきた。しかし、ショウジョウバエの細胞では、GW182タンパク質非依存的にmiRNAが翻訳抑制を引き起こすという報告があり、ヒトの細胞でも同じ機構が存在する可能性があるのではないかと考えた。そこで、GW182タンパク質との結合性を失ったヒト変異体Ago2の、miRNAが誘導する翻訳抑制効果への影響を観察した。このヒト変異体Ago2が、GW182タンパク質との結合性を失い、標的配列を認識する機能を持ち、標的mRNA上でmiRISCを形成することは確認した。このヒト変異体Ago2が発現した細胞抽出液中では、miRNAによる翻訳抑制効果は観察されなかった。この結果から、ショウジョウバエの細胞とは異なり、GW182タンパク質非依存的なmiRNAの翻訳抑制機構はヒトには保存されていないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、miRNAがどのようにして翻訳抑制能を発揮しているのかという作動基盤について、GW182タンパク質を探り針として研究を進めた。その結果、これまでショウジョウバエを用いた生化学実験系で提唱されていたモデルとは異なり、ヒトではmiRNAによる翻訳抑制にはGW182が必須であることが明らかになった。今後、in vitro翻訳系の応用により、GW182タンパク質を中心としたmRNA-タンパク質複合体の解析を実施することで実行役を明らかにできる可能性を提唱できた。また、miRNAによる遺伝子発現抑制機構と同様CCR4-NOT複合体を介した遺伝子発現制御を行うことが知られているARE結合タンパク質を対照とした生化学実験よりmiRNAとARE結合タンパク質では、抑制様式が異なるものであることが明らかになった。これは、miRNAによる遺伝子発現抑制の作動基盤を明らかにする上で大きな知見である。
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今後の研究の推進方策 |
miRNAが誘導する翻訳抑制機構では、GW182タンパク質がAgoタンパク質と結合することが必須であることが明らかになった。この結果から、GW182タンパク質が翻訳抑制を引き起こす実行因子である可能性と、GW182タンパク質を介して結合する因子が翻訳抑制を引き起こす可能性が考えられる。前者の可能性に関しては、多くの研究者がGW182タンパク質の解析を行ってきたなかで、足場として働くという見方が強い。したがって、GW182タンパク質が翻訳抑制を引き起こす実行因子であると考えるより、GW182タンパク質を介してリクルートされる因子が翻訳抑制機構の中心を担っているのではないかと考えた。今後は、標的mRNA上でmiRISCを形成している状態で、GW182タンパク質と結合している複合体の解析を行い、miRNAが誘導する翻訳抑制を引き起こす候補因子を検証していく予定である。
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