マウスを始めとした哺乳類では1倍体(1n)胚および4倍体(4n)胚ともに個体として産まれることはできない。一方、それぞれを正常な2倍体(2n)胚とキメラにした場合、1倍体細胞は2倍体化した細胞のみ個体発生でき、4倍体細胞は胎盤には寄与できるが個体にはほとんど寄与できない。しかし、発生分化過程でこれらの倍数性の異なる細胞がどの段階でどのような機構で排除されていくのか明らかにした報告はほとんどない。本研究では、倍数性の異なる細胞が、発生分化過程で自らのもつ細胞運命によって排除されるのか、それとも周りを取り囲む2倍体細胞との競合によって排除されるのか明らかにする。具体的には、1倍体および4倍体のES細胞を用いて、in vitro およびin vivoにおける分化過程での2倍体細胞との細胞競合を調べる。 1倍体細胞は培養中に培養皿から剥がれていくものが多かったため、細胞接着が関与する細胞競合が起きている可能性が示唆された。そこで、接着性の異なる培養皿を用いて、1倍体と2倍体の混合培養を行なったところ、接着性の高い培養皿では、2倍体が優勢となるのに対して、接着性の低い培養皿や浮遊培養では、1倍体と2倍体の間に細胞競合がほとんど起きていないことが明らかとなった。また、血清添加区では、1倍体細胞の排除が進んだことから、1)細胞が接着していること、2)血清が存在していることが、細胞競合が働くための条件であることが判明した。 現在、接着関連遺伝子を強制発現あるいはノックアウトした1倍体ES細胞の樹立を進めており、それらのES細胞で1倍体と2倍体の比率がどのように変化するのか調べていく。
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